その一例として、最近、私が支援先の現場で出くわした「コミュニケーションで心がザワザワする場面」を取り上げてみたいと思います。
こんな場面に直面した時、ベテラン社員はどう考えて、どうふるまうのか。私の中にあった躊躇とそこで巡らした思考が、自分も周りも幸せに、いい仕事をするためのヒントになればと思います。

【ザワザワ場面】違和感を訴える発言にどう反応するか

ある会社で、若手社員に新入社員向けの社内研修トレーナーを担ってもらおうという話になりました。ビジネスモデル上、なかなか社内でリーダーシップをとる機会が少ない若手社員に、組織のことを考えて自ら発信する経験をしてもらうことが目的です。
そのための準備をしていた時のことです。

私がメンバーのために用意した新入社員向けの資料の中に“積極的に質問していく姿勢が大切です”という表現がありました。
それに対して、若手メンバーのSさんから「これは圧が強い、強すぎる!」という反応が返ってきたのです。

「だから何?」という正直な気持ちもありつつ、「これだと何か悪いことが起こりそうですか?」と、Sさんの懸念について聞いてみました。

「とりあえず、何か質問しなきゃ!という気持ちになってしまう。そして、なんでもいいから質問したらOK、ああ質問できてよかった、ということが起きそう」と説明してくれたSさん。

それを聞いて、今度は私が戸惑います。
〈なんと繊細な感情! そこまで感じるのか、そこまで対応する必要があるのか。私が若手の頃は…、いかんいかん…〉(ここ、私の心の声です)。

一方で、「なるほど!ありがたいな」と感じたのは、この表現では“わからないこと、知りたいことはきちんと質問する”という本来の目的を果たせない可能性があり、そこに彼が違和感を呈してくれたことです。

「(言葉が持つ)圧の強さに意識がいってしまって、本当に質問が必要なことには意識が向けられない、そういうことが起きるのを心配しているんですね」

私はそう確認して、表現もより柔らかく書き換えました。
気になったら、小さなことも質問してみましょう

発言をめぐって生じる多くの戸惑いやズレは、「なぜ、そう思うのか」に類する問いによって、全部ではありませんが、解けることがあります。

人の意見の裏には必ず何かの意図や真意があり、それに紐づく感受性、そして価値観があります。
価値観は「自分は何を価値とみるのか」という求心的な面、認識を束ねる軸的な要素。感受性は、より広範な外界の刺激や空気などを五感で印象としてキャッチする働き、アンテナのような感じる力です。

いきなりぶつけられる違和感をネガティブに受け止めず、「なぜ、そう思うのか」と問うことは、発言の背景や真意を引き出すことで互いの理解を進めてくれます。
Sさんとのやりとりは、感受性の中身を紐解いて、その結果、本当の目的を重視するSさんの価値観を理解することになりました。

こういうことは、自分の身にこれから何度も起こるのだと思います。その時、正しい、正しくないでは線引きできない人の感覚や感情にどう向き合っていくか。「若手社員には、こういう言い方が重要」みたいなことではなく、相手が本当に伝えたいことに焦点を当てて話をすることができるかどうか。

いろいろな人間が集まって話をする場には、言葉にならない空気や感情が流れています。個々の感受性は強弱も含めてさまざまで、何かの情報に触れた途端に直感的な反応も出てきます。そんな時、内心ザワザワしても、背景や真意をちゃんと確認する態度でいようと感じた出来事でした。
それは、自分に照らせば、固まっていく自分の感受性と価値観を確かめ続ける、ということでもあります。

背景や真意を知るための問いかけ
「なんで、そう思うのですか?」
「それによって何が起こりそうですか?」
「気になっているのはどんなことですか?」

【ザワザワ場面】部下に対して「自分と異なる助言」が出てきたら

若手社員向けの成長支援ミーティングを、若手のTさん、成長支援を担当している先輩、その上司と4人で行なう機会がありました。Tさんの最近の業務の状況、今どんなことに困っているか、これからどんなことを学びたいか、そこにどんな応援ができるかなどを一緒に考える場です。

先輩からは「案件も多くて納期に追われがちだけど、よりデザイン方面に踏み込んだ、お客様を驚かせるような仕事に挑戦してほしい」と意欲的な目標が提示されました。私はそれを聞いて、素敵な姿勢だなぁと共感しました。

一方、Tさんの上司からは「Tさんは今、資格も勉強中だし、もっと専門知識を学んでハード面に強くなってほしい。それがうちの会社の強みでもあると思うし、そういうことならサポートできるから自分を使ってほしい」という話がありました。

どちらもTさんのことを思っての、とてもいい提案なのですが、視野や角度は少し違います。

Tさんは、言葉が少なめな責任感の強い人物です。私は、今の状況で当人はどう感じているのかが気になりました。ついつい“守るべき人”とみてしまったのかもしれません。
「Tさんの未来を考えて、お二人から魅力的な提案、それぞれの思いがあると思います。ただ、Tさんの考えも大事。率直にどう思っていますか?」と聞いてみました。
Tさんは少しためらいを見せながら、「今、資格の勉強にも取り組んでいるので、まずはハードのことを学んでいきたいです」と答えてくれました。

本当のところはわかりません。忖度も少しはあったかもしれない。ただし、Tさんは自分で決めていました。心配は不要だったわけです。

ここで私が思ったことは2つ。一つは、答えを他人が決めるのではなく、本人に問うてみること、そこで見えるものが確実にあります。
まだまだ現場で見かけるのは、経験豊かな上位者やベテランが「じゃあ、こうしよう」と、つい代わって答えを示すこと。しかし、成長支援の場面では、“本人が決める”経験を重ねるための機会をつくることが大切です。

“決められない”ということが見えてくることも、もちろんあります。その時は、「半期はハードに集中して学んでみて、そこであらためて考えるのはどう?」というように選択肢をアレンジしてみるのがおすすめです。

もう一つは、異なる選択肢はあったほうがいい、ということ。
この場合のように、助言する立場の人間が異なる見方や意見を示すことは、一見、空気を読まない、混乱を招く行為だと思えることもあるでしょう。しかし、選択肢がなければ、いろんな可能性や方向を考えたり、選んだりすることができません。

仮に対極といえるような選択肢であっても、それをためらわずに出すことが、選択のための視界を拡げることにつながります。どちらを選ぶか、どちらが正解かではなく、選択肢が豊かであることに価値があるのです。

成長を支援するための対話
・選択肢があることはいいこと
・本人が自分で決める機会をつくる

心がザワザワする時、それは自分が育ててきた自分の感受性や価値観が揺れを感じて、警戒音を出しているのだと思います。ベテランの警戒音は、仕事や組織のちょっと気になる、実は大事な変化を感じ取っている証かもしれません。あるいは自分自身に対して、もしかしたら何か新たな観点に気づく必要があるのかもしれないと、今の状態を問い直すための兆しかもしれません。

その警戒音を聞き流さずにキャッチしてみること。周りの人たちの心理的安全性のためだけでなく、自分の成長や変化のタイミングとして思考をより深めていくために、頼りになる面白い相棒としてザワザワにつきあっていければ、仕事の内面生活がより豊かになるのではないか。そんなふうに感じています。

労働人口減、超高齢化の真っただ中にある今の日本です。もっとベテランも脱皮に馴染み、面白がって仕事ができる、そんな組織・社会に近づけたいと思います。
人間の脳の老化は前頭葉から始まり、その結果として感情のコントロールが難しくなっていくと言われます。ザワザワ音がやたらと耳にまとわりつく時は、一応そちら方面にもご注意を。