この本は、そんな「オフサイトミーティング」について、弊社のプロセスデザイナーたちがこれまで30余年の間、さまざまな組織の現場で取り組んできた考え方と実践ノウハウをできるだけわかりやすく伝えた入門書です。それゆえ、より多くの組織でぜひ活用していただきたいと思っています。
ただし、この場づくりは、組織によってハードルの高さがずいぶんと異なります。特に、自治体の行政職員にとっては、一般の企業の社員の方々と問題意識は似ていても、組織の置かれている環境が大きく異なるため、もしかするとそのまますぐには適用しにくいところがあるのではないかと思われます。そこで、行政職員の皆さまがこの本をお読みいただき、オフサイトミーティングに取り組むにあたって、留意しておく点とその克服ポイントについて補足の解説をさせていただくことにしました。

「気楽さ」をどこに取り入れるのか?

オフサイトミーティングの場をつくるときに私たちがベースとして最も大事にしているのが、「気楽さ」です。通常の組織の中で行われている「会議」では、なかなか気楽に話すことができないからです。
特に、自治体の行政組織には、組織自体にいくつもの制約が内在することによる難しさがあると考えられます。
  • トップ(首長)が、4年ごとに公選によって選ばれる。政治家として、行政職員の持つ価値観とは、大きく異なる場合がある。
  • 重要な意思決定は、二元代表制による議会で決定される。議会では、それぞれが立場を背負って公言する。
  • 経営の全体責任は、首長、副首長が持ち、部局長は、企業の役員に相当する役職には当たらない。
  • 行政職員は首長の補助機関として存在するが、トップが誰か、経営状態がどうかに関係なく、終身の身分保障をされている。
  • めざす姿として「地域のビジョン」は明示されるが、「行政組織のビジョン」は明示されにくい。
このような中では、総合計画やまち・ひと・しごと創生総合戦略など、重要な経営の方針や戦略を、計画書にして共有したとしても、そこに記載された背景にある状況認識や、達成に向けて抱く思いは、首長と部局長たちの間でかなり異なっている可能性があります。
お互いに立場を背負ったまま話をしていたのでは、この溝はなかなか埋まらないものです。
この溝を埋めるためにお互いが計画書には記されていない文脈を理解して共有する必要があります。それには幹部が集まる定例の会議とは別に、部局の立場を超えて参加する「気楽さ」を取り入れ、双方向に深く意味や目的を問い深める対話ができる「部局長オフサイトミーティング」や「戦略オフサイトミーティング」を開催すると効果的です。
さらに、計画書などに定められた方針や戦略を組織内に展開していくときにも、行政組織特有の制約があります。
  • 行政組織内では、公権力を扱うことへのリスクヘッジの観点から、年度ごとに職員の内3~4分の1が一斉異動する。
  • 職務の多くが法律によって規定されている。そのため、自治体では自由に変えられず、上司にもわからないことが多くある。
これは、部課長の職場マネジメントにおける課題とつながってきますので、一度に解決しようとするよりも、日々の業務のホウレンソウ(報告・連絡・相談)の機会に「気楽さ」を組み入れて、情報共有やコミュニケーションの質を変えていくことがお勧めです。
例えば、朝礼を事務的な行動報告に終わらせず、お互いの人となりや個人的な興味・関心について話せる話題も組み入れれば、職場全体にぬくもりが感じられるようになってきます。また、課内会議では、仕事上の困っていることや工夫・改善したこと、新しい法改正について勉強したことなどを発表する場を設けると、お互いに自分のやっていることをよく知ってくれているという安心感が漂います。

「まじめさ」をどこから取り入れるのか?

それでも、昨今の行政職場には、課題が山積みで、人数も削減されて業務に追われる状況が伺えます。特に今年は、新型コロナウイルスの感染拡大に対応しているため、例年よりも時間の余裕がないはずです。そんな目の前の課題に追われているだけでは、「本当は話したほうがいい重要なこと」を話しそびれていないでしょうか。
こんなときは、行政組織ならではの利点を活かす方法があります。
  • 全国一律の業務が自治体に共通して存在する。
  • 民間企業と違い、競合関係がなく、かつ、税金で運用しているため、自治体間で情報共有しやすい。
仕事上の本質的な問題や課題については、同じ部署の職員よりもむしろ異なる自治体で同じ業務を担当している者同士のほうが気楽に相談でき、真剣に意見交換しやすい、ということがあるかもしれません。昨今では、SNSを通じて、自分たちの仕事を何とかよくしていいきたいと「まじめに」取り組んでいるメンバーが、自治体を超えて自主的に集まる場が増えています。
そこで、この自治体間のつながりによる気楽な「まじめさ」を自治体の中に取り入れていくという方法が考えられます。
他自治体で取り組んでいる事例を推進している本人や専門家を呼んで話を聴き、その後で意見交換するといった場を設けることができれば、関心を一気に高めやすくなるというわけです。
外部の新しい情報に触れることで、職場の上司や同僚も、自分たちも遅れてはいけないと危機感を持ち、こんなやり方もあるのだと刺激を受けて、自分たちも何かやらないといけないといった意欲を高める契機になります。
もちろん、これだけでは一過性に終わりやすいため、自分たちの自治体の経営方針や戦略を照らし合わせて検討し、重要課題として位置付けていくためには、場の事前の準備から事後のフォローアップまできめ細かく場をコーディネートする必要があるでしょう。
ただ、もしこのチャレンジが空振りやファールに終わったとしても、外の情報を組織の中に入れて風通しをよくしていくことを重ねていけば、組織の情報感度は次第に高まって来ます。また、このような場に毎回参加してくれる人は、何かしらの問題意識や意欲のあるメンバーですので、今後一緒に作戦を考える仲間に巻き込んでいけば、推進力が増してきます。
このように「気楽さ」と「まじめさ」をうまく織り成して、ぜひ自組織内でのオフサイトミーティングを始めていただければと思います。
緊急事態宣言が解除された今の時期であれば、どの自治体でも台風被害に備えた避難所での二次、三次の感染に備えて対策する課題などを抱えています。住民の生命と財産に関わる問題は、優先度が高いため、担当や部署を超え、住民と一緒に対策を考える場を、オフサイトミーティングを活用して実施するチャンスと言えます。
あるいは、Afterコロナの新しい働き方、生活様式をテーマにして事業を見直し、未知の解決策を見出していく必要もあるでしょう。
本に書かれている内容をヒントにしてぜひ将来のありたい姿を考え、アイデアを生み出す「オフサイトミーティング」の場づくりの実践にもチャレンジいただければと思います。
「オフサイトミーティング」に関心はあるけれど、まだイメージがつかない、自分なりにやっているけれどこのやり方でよいのか迷いがある方など、読者の中にいらっしゃるかもしれません。そこで、本の出版を記念して、7月と8月に全国各地からWEBで気軽にご参加いただける「公務員のオフサイトミーティング場づくり応援セミナー」を企画いたしました。書籍や今回のコラムに対する質問なども受け付けて、ご一緒に考えていきたいと存じますので、皆さまのご参加をお待ちしています。