行政組織の変革に影響を与える要因とは

「行政組織の変革に関する調査」は、今年10月に南伊勢町と柏市で実施しました。この調査のきっかけは、昨年夏に行なった「行政組織の組織風土改革実態調査」の結果からでした。
「マニフェストが総合計画に十分に反映されているか」という問いに対し、在職二期(5年以上)の首長だと約8割が「反映されている」と回答したのに対し、一期未満の首長では「反映されている」という回答は5割強に留まっていた、という点について、さらに追究してみることにしたのです。
そこで、役所外部の出身の首長で、就任して1年未満の自治体を対象に、首長が選挙時にかかげたマニフェストが総合計画や中期計画などに反映される前に、どのようにしてビジョンに向けて行政組織を方向づけ、変えていくことができるのか、首長のリーダーシップと組織の対応、職員意識について調査し、行政組織(役所)の組織風土や職員意識の変革に影響を与える要因について明らかにしてみようと考えました。

10月上旬に行なった質問紙調査は、合わせて653人(南伊勢町123人、柏市530人)から回答を得、統計的な解析を行ないました。まだ分析は途中ではありますが、どのような傾向が見られたのか、少しご紹介したいと思います。

まず、行政組織の変革に影響を与える要因を抽出してみると、次のような8つの因子が抽出されました(分析方法は「因子分析」を用い、各因子を構成する質問項目の内容をもとに、因子名は仮につけてあります)。

《行政組織の変革に影響を与えると思われる要因(因子)》
(1)「協力的職場風土」
(2)「首長ビジョンの提示・認知」
(3)「職員の自律的・変革的行動と意識」
(4)「成果・指標の設定」
(5)「首長ビジョンを理解・浸透させるような職場の行動規範やマネジメント」
(6)「首長ビジョンの実行」
(7)「コスト(費用対効果)意識」
(8)「周囲との協力」

次に、それぞれの因子の関係がどのようになっているのかについて、他の分析手法を使い、見てみることにしました(それぞれの数字は、前述の因子の数字と連動しています)

(1)日頃から相談したり意見を言い合ったりする協力的な職場風土があり、(2)首長がビジョンを明確に提示し、それを職員が認知していると、(5)上司が職場で首長のビジョンを伝え、職員が理解を深め、意識して行動するようになり、(3)職員の自律的・変革的行動や意識が高まる、(6)首長のビジョン実現につながるような仕事のやり方、改善提案が行われる、(7) コスト意識が高まる、といった因子に結びついています。

また、(1)協力的な職場風土は、(8)周囲との協力を促進させることにつながり、(7)コスト意識は、(4)現状を把握するために設定した成果やその指標などの見える化を促進すると予想されます。

このような各因子の関係の特徴を見ると、今回調査した対象の行政組織においては、職員の自律的で変革的な行動(意識変革)が首長ビジョンを実現する行動(職員の行動変革)と直接結びついているのではなく、職場における管理職のマネジメントを通して、首長ビジョンの理解が深まり、職場全体がビジョン実現に向けての行動規範になっていくことで職員意識と首長ビジョンの実行にそれぞれ独立的に影響しているのではないか、ということが見えてきました。
首長がビジョンを掲げて明示し、それを職員が「知っている」だけでは、その人が「実現しなければ」と思う意識や実行には結びつかないこと、現状把握のための成果やその指標の設定は、コスト意識が高まってこそ受け入れられるということが言えるでしょう。

まずは「首長と管理職層との対話」から

さらに、当初考えていたような、協力的職場風土や周囲との協力関係が、必ずしも首長ビジョンの実行や自律的・変革的行動を起こす職員意識には、直接的に影響していないということも考えられ、これからさらに詳細な分析が必要です。

また、もしこのような各因子間の関係が存在するとなれば、上司が職場で首長のビジョンを伝え、職員が理解を深め、意識して行動するような職場規範ができるようになるということを経由して、初めて首長のビジョンが実現する可能性が高まるということから、首長が管理職層としっかり向き合い、合意をつくることが必要であることがわかります。
これまでスコラ・コンサルトでも、ビジョンを掲げて新たに首長となった自治体で、首長と部局長や管理職との対話の場づくりをお手伝いさせていただいたことが何度もありますが、そういった意味で、「首長と管理職層との対話」から、行政組織、そして職員の意識や行動は変わっていくのだということが言えるかもしれません。