持続的な成長のため
組織の根深い問題に取り組む組織開発

住友重機械工業株式会社
メカトロニクス事業部
事業部長
伊東 匠さん

 

住友重機械工業株式会社
メカトロニクス事業部
品質保証部
部長 兼 組織開発PJ プロジェクトリーダー
鈴木 清士さん

 

業績への影響は大きな目的

住友重機械のメカトロニクス事業部では、第1期の活動として2023年8月から24年12月まで、計20回の対話を実施した。1回あたり2~3時間、月1回のペースだった。

活動スポンサーである伊東匠さんは、組織開発は事業成果を高めることが最大の目的だと話す。
「業務で忙しい社員たちが、時間を割くことに負担感を覚えるのは当然のことです。しかし事業規模が拡大して忙しい時期こそ、取り組む意義は大きいと考えました。組織の持続的な成長には、チームが一丸となって課題に立ち向かえることが必要です。大きな成果を生む組織はエンゲージメントが高く、イノベーションが起こる。深い対話を通して課題解決するPRIDE PJの手法はきわめて有効であり、私たちの事業部に必要だと判断して取り組むことを決めました」

第1期のスタート時に参加したのは、推進オーナーの鈴木清士品質保証部部長と推進メンバー8人。伊東事業部長も、対話を重ねてメンバーが慣れてきた頃から参加するようになった。

推進メンバーの8人は、管理職(課長クラス)とその手前の中堅社員たちで、各部門から1名ずつが参加した。鈴木さんが事務局だった社内研修「ジュニアリーダープログラム」の受講者から、グループ討議で活発に発言するなど積極性が印象に残った人たちに声をかけた。
当時、中堅社員の元気がないことが課題の一つでした。組織としては、管理職になる前後の人たちに最も活躍してほしいのに元気がない。また、部署間に垣根があって、コミュニケーション不足から連携がうまくいかないことにも問題意識がありました。だから、各部門から中堅社員に集まってもらいました」(鈴木さん)

組織の課題は、社員意識調査の結果に表れていた。22年調査では中堅社員のスコアが目立って低く、人事本部の担当者に調査結果の読み解き方を説明してもらっても、鈴木さんには職場状況との因果関係が把握できなかった。

原因を探るために中堅社員を20人ほど集めて意見を聞いたところ、不平不満が数多く出た。次のステップとして、ヒアリング内容をフィードバックして原因究明や問題解決に進むはずだったが、不平不満のフィードバックには問題があるという意見が出たため、活動は途中で頓挫した。参加した中堅社員たちに不満だけが残った。
「組織開発グループに相談すると、少人数の対話会を継続的に開くことをすすめられました。対話を通して問題や課題が明らかになり、解決策が見えてくるのではないかと。活動のゴールは設定しませんでした。職場をよくする、明るくするという目的だけを決め、まずは問題や課題を共有する、対話のなかでアクションが決まれば実行していく。目的は共有するが、目標は掲げない、という方針でスタートしました」(鈴木さん)

まずはチーム化に取り組む

第1回では、社員意識調査の結果やヒアリングで失敗したこと、PRIDE PJの目的や狙いを詳しく説明し、対話に向けて準備を進めた。しかし、みんな違う職場でお互いのことをよく知らないから、何をどう話しあえばいいかわからない。

スコラ・コンサルトのプロセスデザイナー(PD)は、対話の前段階として「ジブンガタリ」を提案した。ジブンガタリとは、お互いの人となりを深く知るために、それぞれ自分自身について語ること。1人あたり90分ほど語ったあと、質疑応答でさらに相互理解を深めていく。

「みんな本気で話してくれました。自分の熱い思いを語る人、いろんな思いが溢れて涙を流す人がいる。だんだん垣根が取り払われて、相互信頼が生まれてくる。1つのチームとなるには、お互いの人となりを知ることが大切だと実感しました」(鈴木さん)
「初めのうちは『自分の部署は……』『上流が』『下流が』とお互いの違いや立場が意識されているように見えました。しかし対話が進むにつれてどんどん視座が高くなり、一緒に事業部全体を考えるチームになっていくのがわかりました」(伊東さん)

ジブンガタリが終わる頃、対話のなかで「自分たちの事業にとって目的や課題は何か」というテーマが自然に出てきた。メカトロニクス事業部の環境や事業の将来について、メンバー全員が意見を出しあって整理していった。

課題が整理されたら、解決につながる具体的なアクションを検討した。いくつか候補が出たなかで選ばれたのが、グループリーダー(GL)/チームリーダー(TL)対話会だった。GLとTLは推進メンバーより上位の管理職で60人いる。この階層が集まる対話会は、他の社員にも「組織に変化が起きている」と実感しやすい。第一期の最終成果にふさわしいと判断された。

多忙なGLとTLを集めるために、業務が休みの可能性が高い有給奨励日に開くことを決めた。案内を出すのはいつ頃か、部長以上にも理解を求めるかなどの手順を考え、半年ほどかけて実現させた。

開催当日は30名ずつ2回に分け、6人ずつのグループに推進メンバー1人がファシリテーターとして参加した。対話の内容は後日、グループごとに取りまとめて事業部内のイントラネットに掲載した。閲覧件数から事業部内のほぼ全員が見たと思われるほど、社員たちの関心度は高かった。

第1期の活動内容は、スタート時から事業部内に「会報」の形で共有されていた。当時メカトロニクス事業部の従業員数は350人以上(2024年12月時点) 。対話の集まりが開かれるたびに内容をまとめ、全社員にメールで配信していた。
「各部門から集められた8人だけが何か話し合っているという印象は、批判的な見方を生むでしょうから、不透明感はできるだけなくそうと考えました。最終的なアウトプットも、いきなり提示されるより、決まるまでのプロセスを知っていたほうが理解は深い。会報を読んだ社員から意見や質問が届いたり、自分も参加したいと希望されたり、意外な反響がありました」(鈴木さん)