それは、“方針をつくる”という建前と“育成する”という実態との間にあるギャップについて、行政組織ではなかなか注視されることがないからです。
たとえギャップの存在を問題視したとしても、その多くが個人の資質や能力、努力の問題だととらえられているからです。

建前の組織運営

そこには、行政組織では常々“法律”に基づいて仕事をしており、その仕事が「法律を制定すれば人は法律を守るものだ」という“べき論”で運営されているからかもしれません。
もちろん役所では、きちんと守られるように啓蒙活動をしたり、守らない人に対して監視監督や是正指導をしたりする役割を担っています。
しかし、法律を守るかどうかは、結局のところ国民自身が責任を持っています。

この仕事の習慣が、役所ではいつしか“人を育てる”ということにまで適用されているようです。
“人材育成方針”に求められる(めざす)職員像を設定し、“人事評価制度”に業績評価や能力評価の指標を反映しておけば職員は育つはず、そんな建前で組織を運営しているのではないでしょうか。

さらには、上司である管理職に対しても、この職員像をすでに身に付けた優秀な人である、という“べき論”をあてはめ、能力評価を不要としている自治体もあります。
これでは、いつまでたっても組織内に「人をいかにして育てていけばいいのか」という課題が生まれてきません。実態を変えてギャップを埋めていくマネジメントの環境が整備されていかないのです。

このまま建前で組織を運営していると、やがては実態との乖離がさらに大きくなります。
そして、ギャップの原因を個人の資質や能力の問題とだけとらえてしまえば、やがては個人が問題を抱え込み、やる気を減退させたり、メンタルに支障を来たしたりするでしょう。
コンプライアンスの違反や業務上のミスを生じる危険性も増してきます。

個人の“やる気”を引き出すアプローチ

一方、問題解決を個人に委ねた結果増えているのが、個人の“やる気”を引き出すアプローチです。
研修の中に選択性や公募性のプログラムを増やしてみたり、人事評価の結果により給与や昇給に差をつけたりすることで意欲を掻き立てようとしています。
これは、みずから育とうとする意欲のある人材には効果があるものです。
しかし、その割合は少数ですから、それだけでは取り残された職員との格差が広がり、二極化を招くことになるでしょう。

民間企業と違い、いくら差をつけても、辞めることなく、ぶら下がって残ってしまう職員を抱え込みやすい役所では、そのしわ寄せが今度は“できる職員”に回って来て、最後は意欲と能力のある職員さえもつぶれてしまいかねない状況にあります。
それゆえ、役所では、職員みんな、組織全体を底上げして、着実に組織力を高めていく必要があるのです。

2008年当時、この重要性に気づく職員はほとんどいませんでした。
しかし、今は職員の中にも気づきの輪が広がってきています。
2013年に「自治体改善マネジメント研究会」を立ち上げたのは、このことに共感する自治体のミドル有志でした。
そして、今年7月にNPO化したことに伴い、副知事・副市長や、行革・企画・人事部門の長など、経営幹部たちの中にも、新しく参謀部会を立ち上げる動きが出てきました。かつて参謀役を担ってきた経験のある首長や国家公務員も賛助会員となって応援してくれています。

彼らは、なぜ組織マネジメントの重要性に気づくことができたのでしょうか。
それは、彼ら自身が、地方分権時代に対応して、国のほうを見るのではなく、地域の現場、住民の視点に立って、本当に何が必要かを考え、そのために何ができるかを考え、みずから行動を変え、仕事を変え、仲間とともに、組織を変える経験をしてきた人たちだからです。

重要となる戦略は全員経営で臨む

少子高齢化と人口減が深刻化した今では、さらに地方創生が求められるようになりました。
ここで重要となる戦略は、「みんなで変わる」「一緒に変わる」、全員経営で臨まなければ実現しきれません。また、あらゆる取組みをうまく一貫した経営システムとしてマネジメントしていなければ、戦略が一過性で終わってしまうことになるでしょう。

組織は、独りで変えることができるものではありません。
自分と他者との関係において、ときに自分をふり返り、ときに自分を否定して、ときに他人の力を借りて、みんなで変わることができたとき、組織に仕事を変え続ける力を持つことができるようになります。

行政組織が、真に「人」を中心に、人を生かし、チームの力で地域を変えていけるよう、私たちはマネジメントの環境づくりを進めていこうと思っています。
これからも引き続きよろしくお願いいたします。