ただ、全庁的な取り扱いがどうであったとしても、一番のベースは個々の職場にある、ということに変わりはありません。
各課や各係の全員で、まずはそれぞれがこの一年担当した仕事の中で実現した改善結果を持ち寄り、共有して、その努力や成果を互いに称え合う場を設けることが大切です。

今はどの自治体でも人事評価制度が運用されていて、個々の職員の目標と達成度については、上司が部下と面談して評価するようになっています。
そのため、改めてこのような場を設ける必要は感じにくいかもしれません。

しかし、職場全体で改善成果を共有することには、上司と部下が1対1で行なう面談とは異なり、職場の組織力を高める次のような効果があると言えます。

成果を語る場が、プロセスを整理してとらえ直す機会になる

改善は、現場で何か困ったことがあったときに、何とかしようとがんばって、障害を乗り越えた先に得られるものです。しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるように、過ぎてしまうとまた次の新しい課題が見えて来て、そのことに気が向いてしまうと、ふり返って整理しそびれていることがあるのではないでしょうか。

成果を第三者に伝える機会を持つことは、そもそもなぜ改善に取り組むことになったのか、自分がどうやって障害を乗り越えたのか、やったことでどんな成果が得られたのかなど、プロセスを整理してとらえ直す機会となるものです。

成否の要因に気づく

職場の身近な同僚に、改めて自分の取組を語ってみると、いろんな感想や質問を受けることができます。
自分では当たり前だと思っていたことに関して、「へぇ~」と驚かれたり、「そのとき〇〇とはどんなやりとりをしていたのですか」など、取組の背景にある関係者との関わりに注目されることがあるかもしれません。
自分では気づかなかった成否の要因に気づくことができるでしょう。

自分の改善が組織のバージョンアップにつながる

一人ひとりが努力して取り組んだ改善も、その場だけで終わらせていると、その人が異動したり、状況が変わったときに引き継がれず、後に残らないことがあるものです。

しかし、職場全体で共有する場を設け、最後にこれをどうみんなで活かしていけばいいかを話し合うようにすれば、「マニュアルにしておいて欲しい」とか、「次年度は他の担当者や部署にも広げていけばどうか」などのアイデアが出てきます。
やった成果が他者から評価されることによって、個人がやりがいを感じることができるとともに、職場全体の業務の標準化や組織力の向上にもつながります。

改善で発揮された能力を確認して、人材を育成する

新しい改善には、新しいチャレンジが必要です。したがって担当する職員にも、新しく能力を開発したり、向上したり、発揮したりしていることがあるはずです。
そこで、仕事の改善を語った後には、同時にどんな能力がアップしたのかについて質問して確認するようにしてみてください。

それは、本人の努力を労うだけでなく、どんな改善をするときにどんな能力が必要なのかについて、周りの職員も認識することにつながります。
それによって、難しい課題にぶつかったとき、初めから「できない」とあきらめるのではなく、自分にどんな力が足りないのかを考えて、〇〇さんの力を借りようとか、自分の能力を高めるために研修を受けに行こうなど、職場での人材育成が進みます。

改善の質を見分ける眼を養い、次の改善課題を見出す

“改善”と一言で言っても実際には、今までの延長で効率化や質を向上する“改善”だけでなく、現状の“不具合を解消”することや新しい価値を創造する“革新”など、〔変革レベル〕が異なるものが混ざっています。

取り組む対象者の範囲も、個人の業務内で行なう場合から、職場全体に関わる場合、もしくは、他部署と連携したり、地域の住民や各種団体が関わって一緒に進める場合まで、〔活動ステージ〕に違いがあります。

また、取り組む課題が、予め明確に設定されている既存の改善活動と、これまでにない新しい環境で未知の課題に挑む新しい改善活動では、〔活動の進め方〕にも大きな違いがあります。

職場でいくつもの改善事例が集まって来れば、それぞれがどの変革レベル、活動ステージ、活動の進め方をしていたのか、改善の特徴をとらえていくことによって、職場全体で改善の質を見分ける眼が肥えてきます。

拙著『自治体を進化させる公務員の新改善力 ―変革×越境でステップアップ』には、これら改善の質を見分ける“改善キャリアマップ”を紹介していますので、ぜひ職場での改善成果の共有にご活用ください。
年度末に職場での改善成果を係長、課長で総括すれば、次年度に取り組む改善課題もいくつか思い浮かべることができるでしょう。

職場のみんなで苦労をねぎらい、改善成果を称え合い、成長の喜びを分かち合う、楽しい共有の場ができましたら、ご報告をお待ちしています。