第4回 サイボウズは本当に「いい会社」なのか【飛躍の可能性編】

めざす理想への共感と、やるべきことを地道に実践する運営によって、現状は整合性がとれているサイボウズ。今後さらに発展することを応援する気持ちで、飛躍のポイントを考察してみたいと思います。

サイボウズのミーティングの実態

現在のサイボウズは、製品や事業をゼロから生むよりも、これまでに生まれたものを改善し、大事に育てていくことが多いです。しかし、製品の改善以外にもマーケティングやブランディングの施策、社内のマネジメントの改善など、さまざまなところで小さな創造も必要です。そんな小さな創造を生み出す上で、日々の会議のようすはどうなっているでしょうか。

インタビューでは「サイボウズは内容の薄い会議が少ない」という中途入社組の意見がありました。私もいくつか会議に参加しましたが、ミーティングの充実感や効率性はなるほど!と感心しました。

具体的には、このように会議が行われています。

  • ミーティングでは、目的や議題、責任者をしっかり設定し、グループウェア上での事前のアイデア出しも盛んに行われます。
  • 特定の人の意見を一方的に聴くだけにならず、参加者が活発に発言しています。よりよい結論を出そうという雰囲気があります。オンラインか対面かを問わず、自分たちは意見交換が活発であるという認識もあるようです。
  • 意見を発散的に集めてその場で答えを出したり、その場で決めずに決めるべき人が持ち帰ったりすることを、タイムマネジメントしながら判断しています。無理に結論を出さずに、ゴールを再設定することもあるようなので、議論のプロセスを重視しているように思われます。
  • 組織が大きくなってきて、機能別組織として整ってきており、テーマの責任者や担当部署があらかじめ決まっています。それほど混沌とした状態にはならないように思えます。
  • ミーティングの場で議論する場合も、持ち帰って熟考する場合も、発散的に出たアイデアをもとに、会議をコーディネートしている責任者が頭の中でアイデアを統合しているのかもしれません。
  • 効率性を重視しているようなので、もしかすると、他の人の意見に刺激されて当初の考えが根本から覆されたり、参加者全体で一緒に生み出していくという感じにはなりにくいかもしれません。

 

私が参加した会議は、長期的な展望で考える会議というよりも、定例会議がほとんどだったので、それほど時間をかけずに結論を出すスタイルを選んでいるのかもしれません。じっくり結論を生み出すタイプのミーティングだと状況は違ってくるとも考えられます。また、サイボウズを観察していると、「議論のスタイル」を高めることよりも、自由な環境の中からアイデアや動きをつくる「人」が現れたり、副業や社外との接点で刺激を受けた人から新しい「コト」が起こることを意図しているように見えます。

これらのことを併せると、アイデアの発生やダイナミックな動きは、チームというよりも個人起点で始まることが多いのかもしれません。サイボウズのチームワークは、「そういう動きができる個人を活かす」という意味のチームワークかもしれないと私は推察しました。

サイボウズのチームワークスタイルは野球チーム型か

チームワークのタイプとして、ふたつの例を挙げます。

ひとつ目は、サッカーでいうと、中心選手はそれほど決まっておらず、すべての選手が同時に考えたり動いたりしながら、どこからでも得点が生まれるような「トータルフットボール型チームワーク」。ふたつ目は、各選手が自立して役割をしっかり果たすことの総体として成果が生まれる「野球型チームワーク」。

サイボウズの場合は、アイデアの発散・収集過程はチームプレイで行なっていますが、それをもとに結論を生み出す仕上げの部分は、個人が責任をまっとうしている感じがします。また、前述したように組織形態はフラット型にはせず、上司・部下間の情報共有も重視しています。いくつかの要素から考えると「野球型チームワーク」のほうが近い気がします。

チームで問題自体を設定する

組織が整い、ビジョンに向かって統制的になると、先端でそれを考えている一部の人たち以外は「そもそも何を問題とするか」という問題設定の機会から遠ざかります。こうなると「問題自体を創造する能力」の力が低下しかねません。最初に問題を設定することは難しいです。個人を活かす野球型チームワークでもできるかもしれないですが、ひとりの頭の中で行なうのでなく、チームの力でより良い問題設定ができたら素晴らしい結果が生まれる気がします。

私はサイボウズのごく一部しか見ていないので推論になりますが、「いい会社」がさらに良くなる余白がまだここにあるのではないかと思っています。

チームの創造性に必要な3つの要素

チーム単位での創造性には、次の3つの要素が必要だと私は考えています。

メンバーの「関係性」と「主体性」は、創造的なチームをつくるための基盤となり、「チーム思考」は、直面するさまざまな問題を創造的に解決するために必要となります。サイボウズは、日ごろからメンバー同士の関係性を築き、主体的に取り組んでいる人が多そうですので、「関係性」と「主体性」についてはある程度できていると思います。

「チーム思考」とは以下のようなイメージです。

  • 一人ひとりが当初もっていた答えを上回るような答えを、メンバーの多様な視点をもとにアイデアを積み重ねて生み出す。
  • 単にアイデアを集めて一人が決めるのではなく対話のプロセスで生み出すことで、それまでの固定観念も塗り替わる。
  • 参画しながら共通イメージをつくっているので、「自分ごと」になり、自然に役割分担が生まれて実行が促進される。

日ごろからそのテーマを考え抜いているメンバーが集まり、安心して話せる関係の中で、十分な時間を割いて話し合う。意見の背景に迫り、「なんとなく気になる」といった感覚的な情報や内面的な話もよしとする。結論を急ぐ会議とは異なって、話の脱線もしながら、自分が日ごろから考えていることと他の人のアイデアが結びついて出てくる「ちょっとしたアイデア」が連鎖していくイメージです。

サッカーで譬えるなら、ストライカーにボールを集めるのではなく、最終的に誰がゴールを決めるかはわからないけれどパスをつなげていく感覚です。多数のパス交換の中から、最終的には意外なところからゴールが生まれるというプロセスです。

サイボウズはどこまでできているでしょうか。私も一緒に仕事をしてみるくらい深く関わらないとわからないようなことだと思いますが、聞いた話ではできているように思えたエピソードもあります。

「チーム思考」はすでにできているかもしれない

サイボウズでの仕事を複(副)業とする人材を募集する「複業採用」の制度は、人事部内のワークショップでふたつのグループに分かれて議論したときに、両チームから出てきたアイデアだそうです。青野社長もびっくりしたそうですが、メンバーの意欲が高まっていたからでしょうか、「やってみよう」ということになって実現し、「日本の人事部」の「HRアワード最優秀賞」を受賞しました。

開発部などはアナログ的な手法も使ってチームワークを高めようとしているようですし、全体の文化として、個人の「強い想い」といった、あいまいなものにも可能性を見出して実現に結びつけるところがありそうです。すでに「チーム思考」ができているのかもしれません。サイボウズが今後どういうやり方で「ゆるくても勝ってしまう会社」になるのか、ビジネスを通じて社会を変えてしまうのか、とても楽しみです。

最終回は、サイボウズの組織づくりを率いてきた青野社長と山田副社長にスポットを当て、お二人のチームワークについてお話を伺います。