ゴルフ漫画「風の大地」の舞台にもなっている栃木県の鹿沼カントリー倶楽部(以下、鹿沼CC)。年間10万人以上が訪れ、45ホールを有する県内随一のゴルフ場は、コンディションのいい高速グリーンのコースが自慢だ。
2004年に民事再生を経験し、以来「お客様に『また来たい』と思ってもらえるゴルフ場」をめざして、ホスピタリティに力を入れてきた。
鹿沼CCが掲げるのは、「ヒューマンサービスでダントツ!」。当倶楽部の顔であり、みんなにお母さん的存在として慕われている米谷彰子総支配人を中心に、フロントスタッフは、堅苦しくなりすぎない、心地よい接客サービスに力を入れている。
その一方で、他のサービス業と同様に、ゴルフ場も機械化やIT化による効率化の動きが加速している。鹿沼CCでも、自動精算機を使えばフロントに寄らずともスピーディーにチェックアウトができるようになった。
米谷さんは、時代の流れとして無人化による施設の利便性向上は必要だと思っている。しかし、半面ではどこか疑問を感じていた。
「お客様は単にコースを回るだけではなく、スコアが良かったり悪かったり、いろいろな気持ちを抱えてクラブハウスに戻ってくる。その気持ちを誰かと話して噛みしめることもなく、ただ黙って帰るというのは、私たちのめざすゴルフ場の光景なのだろうか」
そこで始めたのが、お客様一人ひとりのお見送り。今までフロント内にとどまって電話応対や事務作業をしていたスタッフが、フロアに出て、お客様への声がけやお見送りをするようにした。
お客様とリアルに接したスタッフは、「いつもネットの口コミはチェックしていましたが、お客様から直接ダメ出しやお褒めの言葉をいただくことは、接客を見直したり、ゴルフ場を良くしていくために大切だと感じた」という。
同時に米谷さんが抱えたのが、サービス人材をどう育てるかという問題である。
どうすれば、接客経験のない若いスタッフが「ダントツ」レベルのサービスを身につけることができるだろうか。
米谷さんは倶楽部が民事再生という厳しい局面を乗り越える際、営業チームのリーダーとして最前線で会員やお客様と真正面から向き合ってきた。世代を超えて事業を継続することの難しさを身をもって理解しているだけに、支配人になってからは「若手の人材育成をしっかりやりたい」と思っていた。
この課題に対して、米谷さんは、ITを活用して業務の効率化を進めると同時に、若手がどんどん新しいことに挑戦して成長する組織にするため「ベテランの経験・スキルに頼る属人化した接客対応から脱却したい」と考え、栃木県が主催するチームイノベーション実践プログラムに参加することを決めた。県内のサービス産業を対象に、ITも活用しながら商品・サービスの革新に取り組む9か月間のプログラムである。