マイビジョンを描くうえでは、自社の事業や業界、普段の仕事や自分の役割といった限られた想定で考えると、発想はどうしても“できる範囲”になりがち。創造的なテンションは、外部の新しい情報や異なる視点にふれて刺激を得たり、視野を変えたりすることで高まります。それと同時に、視座も引き上げられて、自分が展望するマイビジョンの未来も広がっていくのです。

去る3月14日に開催したエンジニアLinkの10周年イベント〈世界トップレベルに触れて、仲間とマイビジョンをつくろう〉では、参加した約140人が、まさにそんな環境の中で「マイビジョン」をのびのびと自由に描いてみました。アウトプットを重視するというより、思考を思いきり飛ばして思い描いてみる、わくわく感を味わう体験です。

世界最先端の視点と思考にふれて視界が開ける

 

 

 

 

 

 

当日のプログラムでは、ゲストスピーカーの具体的な情報やリアルな体験談の数々が参加者の考えを解き放つきっかけに。たとえば、MITメディアラボ副所長の石井裕さんの基調講演では、宇宙や世界という壮大な視野と時間軸から物事をとらえて視座を高めることの大切さや、未来をつくるための3つの力などが提示されました。

石井さんが力説されたのは、常識の枠を超えた想像力や感性が未来をつくる原動力になること。また、命が尽きたその先の2200年という途方もない未来にも「志・ビジョン」や「美」は届く、次の世代に受け継がれていくという視点に、参加者はハッと目からウロコの驚きに包まれました。石井さんの話に連れられて考えたこともない世界に踏み込んでみると、今の自分の立ち位置がいかにちっぽけだったかという感覚が生まれます。

いきいきと開放的なマイビジョンを描いてみる
~分科会の熱量とリアルな体験談でふくらむ可能性

基調講演のあとは、参加者の関心テーマで選んだ4つの分科会に分かれ、30余人ぐらいのグループで、それぞれ情報提供と質疑応答、意見交換など。
異なる分野の第一線で活躍するゲストが目の前で語る経験やビジョンは鮮烈な刺激でした。参加した人たちは、あらためて自身の興味や信念と向き合い、職場では得られない多様な視点や価値観にふれながら、アイデアを自在に広げる思考の浮揚体験を楽しみました。

4テーマのセッション

【テーマ1】挑戦の裏側から未来を見つめる

JAXA元宇宙船「こうのとり」フライトディレクタ内山崇さんは、「絶対失敗できないミッション」を成功に導いた経験や、宇宙飛行士選抜で最終候補まで残ったものの落選した挫折の体験から得るものについて語りました。
「残念な結果であっても後悔はない」と断言する姿勢は、企業人に強烈な印象を残します。そして、「異業種の同志や仲間との出会いが一生の財産」という言葉は、大きな挑戦や挫折に直面するほど“人の存在”が気づきや学び、回復や意欲の支えとなること、かけがえのない価値であることを教えてくれました。

【テーマ2】共感の熱量がイノベーションを生む

日立製作所 研究開発グループ 技術戦略室チーフストラテジスト佐藤雅彦さんが「日立のオープンイノベーション活動と社員コミュニティ活用事例」をテーマに紹介したのは、高い熱量の有志コミュニティ「Team Sunrise」の活動における試行錯誤について。
ボトムアップの活動を経営戦略に合流させる取り組みは、山あり谷ありだったが、ふり返ると「人生は思った通りにはならない、しかし思った以上のものにすることはできる」。そんな実感のこもった前向きなメッセージは、参加者の強い共感を呼び、励まされるものでした。

【テーマ3】知のつながりが未来を創る

MEMORY LAB代表 畑瀬研斗さんが提示したのは、自身の挫折経験から脳の研究へと至った背景や、社会課題を解決する技術の可能性。「世界の『知』をつなぎ、次のイノベーションを生む」がテーマです。
世の中を動かすのは、大きな仕組みではなく「たった一人の熱」という彼の信念は、みんなの心を大きく揺さぶります。一人の人間が持つ計り知れないエネルギーと可能性、それを拓く突破力と好奇心の重要性を再確認させられました。

【テーマ4】強いモノづくりはトップの覚悟

SUBARU CTO藤貫哲郎さんは、「このままだと日本のモノづくりはダメになる、世界で勝てるモノづくりにするためには何が必要か」、その模索と実践について語りました。
自身が経験してきた、人が境界線を越えて関わり合ってモノをつくる強さ、それを今の状況の中でいかに芽生えさせていくか。勝てるモノづくりを実現するための大部屋開発の方法論、その裏にあった粘り強いマネジメント、権限移譲は、“全部が見えるようにして何も言わない”など、実践知にもとづく姿勢に深く納得しました。

まるで冒険するように目を輝かせて、未知の世界に思いを馳せる参加者たち。分科会では、それぞれの分野で疾走する人たちが、わくわくする好奇心こそが原動力になると力強く語り、参加者一人ひとりがリミッターを外して「マイビジョン」をデザインするうえでのヒントが惜しみなく提供されました。

 

 

 

 

 

新たな自分が顔を出す
「自社以外」の広い世界を身体で感じる場の可能性

(プロセスデザイナー 太田久美

職場で、ビジョンや未来イメージを考えようとすると、いつもの仕事の中で担う役割、責任を果たすべき作業や思考から「離れて考えよう」という思いはあっても、身体感覚はそうならない。人はいつもの自分の思考や役割に縛られ、それらに守られて毎日を過ごしています。ほどよく無難な答えが喜ばれる環境もあって、その立ち位置や空気を破ることには慣性の法則に抗うような難しさがあります。

社外の場(エンジニアLink)に出てみると、最初は新雪に足を踏み入れるような、ちょっとした緊張とときめきがあります。会場での名刺交換ひとつを取っても、儀礼的なこと以上に、自分は何者か、自分の仕事とは何かを周りに紹介しながら、参加者は自分についての認識を形成していきます。「そんなお仕事されてるんですか!」「どんな技術を使うんですか?」「スゴイですね!」などの反応があるからです。
ルーティンに埋没しがちな毎日から、自分に、自分の仕事に意味や価値がある、そんな感触が生まれます。そこですでに互いを応援しあう熱量が少し生まれています。

仕事やテーマを持った一人の人間としての輪郭をおぼろげに得た参加者は(意外とこれが社内では形成しにくい)、もう一方では、情報提供や他者とのやりとりから接点のない分野・領域や地域についての新たな情報を得ます。それは固有の情報として有用なこともあれば、自分の周りにみられる現象との類似点を感じてアナロジー的に意味を形成することもあります。

こうしたインプットがもたらす新たな視点を活用しながら、あらためて自分や自分の仕事のビジョンを考えるとき、すでに考えるときの立ち位置やスケール、アプローチは変わっているのです。自分の見ている「“全体”が書き換わる」と表現できるかもしれません。

加えて、ビジョンを一人で考えるだけではなく、知らない同士で話し合いながら形づくっていくこともポイントです。自分のビジョンを周りのメンバーが受容して聞いてくれる姿勢、応援してくれる態度がもたらすもの。自分の意見や考えを評価されないことが当たり前になっている中で、ただ素直に聞いてもらえる場は自信につながり、エネルギーを増幅していると強く感じます。そこに、慣性の法則から少しズレ、抜け出してビジョンを考えていける、勇気づけられた個人の存在が立ち上がってくる、と思うのです。

登壇者・参加者の思い

(登壇者)日立製作所 佐藤雅彦さん

エンジニアLinkで出会った熱気は、私の胸を打ち、志を新たにしてくれました。石井先生がお話しされたように、これからの時代の技術者には、技術者という枠に安住せず、役割を越え、視野と行動の幅を広げる覚悟が求められます。思った通りにならない人生を、思った以上に変えるのは、日々を磨く克己力です。組織としても、挑戦が個人のリスクではなく組織の資産となる仕組みを育てたい。ここに集う皆さんは、それぞれの現場で挑戦を実践へ変える力を持つ方々です。この交流の灯を、未来への希望として絶やさず広げていきましょう。

(参加者)SUBARU 樋口光さん(20代)

普段の業務では得られない多様な視点や価値観に触れた。特に「エンジニアというラベルを貼るな」という考え方が一番印象的でした。技術だけで完結するのではなく、音楽やアートのような感性も含めて未来を考える必要がある、という視点は、普段の業務ではあまり触れない価値観でした。また、「正解は最初からない」という前提で考える姿勢も新鮮でした。20代でこういった考えに触れる事ができたのは良かったと思います。

特に刺激になったのは、熱量の高いエンジニアの方々と直接話せたこと。それぞれが自分の興味や信念を持って挑戦している姿が印象的で、たくさん失敗してきた人たちがいっぱいだなと。自分ももっと枠を超えて挑戦したいと思えるきっかけになりました。

(参加者)春から中央大学 津田勇気さん(10代)

叔父に連れられふらっと参加。これまでなんとなく生きてきた自分を見つめ直すきっかけになりました。石井裕先生は、人との別離の寂しさを埋める事が原動力であり、メモリーラボの畑瀬研斗さんは、深い好奇心(ドーパミン)が原動力とのことでした。今、自分の中には具体的な目標も原動力もありません。しかし、このイベントを通して、大学では人生を捧げるほどの熱を見つけたい!と強く思いました。

(参加者)インターネットイニシアティブ(IIJ) 山田真維さん(20代)

運営ボランティアとして、約140名が集う場の熱量を肌で感じられたことは大きな財産となりました。世話人の方々による「声かけファースト」の姿勢は、初対面の参加者や運営側の垣根を取り払い、一体感を生み出す原動力になると学びました。また、登壇者の石井さんの「一期一会のこの場を、互いのエネルギーを交換し合う好機と捉える」というお話は、緊張していた私の背中を押してくれました。この貴重な刺激を糧に、まずは日々の業務で研鑽を積み、このような場で価値を還元できる存在へと成長していきたいです。

(参加者)日産自動車 石川謙さん(40代)

ポリネーターになれた。知り合いが多いだけではない。知り合い同士を繋いで、未来に繋げた。自社で運営しているコミュティも含めて、様々なコミュティで出会った人達が繋がった。それを実現できる場は本当に貴重だと思う。

(登壇者)MEMORY LAB 畑瀬研斗さん

エンジニアLinkは、様々な知が集まり連鎖し、新たな価値が立ち上がっていく場だと感じました。技術や領域を越えて熱量がぶつかり合い、そのエネルギーが周囲に伝播していく。ただの情報交換の場ではなく、自分は何に向き合い、どう生きるのかまで問い直される感覚がある。エンジニアにとって、視座と可能性を大きく拡張し、自らの挑戦を後押ししてくれる非常に意義深い場だと思います。

 

参加者がおぼろげに抱いていた夢や挑戦が、可能性の大きなビジョンに変わっていく。そんな生きたプロセスを内包する場を、これからも大事にしていきたいと思います。

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