かつて「営業プロセス再構築」の一環で行なった「展示会のリニューアル」では、前年対比150%という売上増を実現した。その他の課題についても同様にアクションプランをつくって推進されるはずだった。しかし、現職で2年ぶりにその会社を訪れたときに目の当たりにしたのは、「自分の課題として個人が本気で取り組み、さらに関係者同士がきちんと向き合わなければ解決されない課題」が積み残され、計画推進を妨げているという現実だった。
私は、トップダウンでやらせることの限界を感じると同時に、あらためての支援にあたって、
(1)1年後には同じ課題を掲げないで済む状態にする
(2)解決策と同時に、解決当事者をつくる
(3)解決当事者の行動を支援する、
という3つの約束を経営メンバーと交わした。

そのために、経営メンバーと共に取り組んだ条件づくりは次の3つである。

スポンサーシップを形成する(当事者が動きやすい環境をつくる)

経営メンバーは、「自分たちがまず変わろう」というスローガンを掲げ、「何が問題なのか」「将来実現したいことは何か」「そのために自分は何をやろうとしているのか」という3点について、60時間くらいを費やし徹底したミーティングを行なった。
そこでは、会社の将来像や新しいビジネスモデル、売上目標をはじめとするさまざまなテーマでの議論を行ない、それを実現するために「社員と経営の相互提案型組織を実現すること」を経営メンバーの新たな目的に、また自分たちの役割を“目的にコミットした変革のスポンサー”と位置づけ、現場の社員たちとの対話を開始した。

経営の軸を明確にし、価値観を合わせていく(相互提案型組織を実現するとは、どういうことか)

「どういう組織の姿をめざしていくか」を明確にすることが経営の軸になる。同社の場合は「社員と経営の相互提案型組織を実現する」こと。これは、「経営が考え、社員に実行させる」から「一緒に問題を話し合い、社員の主体性をテコにして課題解決をする」へと、マネジメントを転換することを意味する。そして、この「軸」は、社員が自分で判断し、行動する上での判断基準になってきている。
ただ単に「提案型組織を実現する」と言い続けるだけではなく、そうなるための条件や動きを経営がつくっていく、その「スポンサーシップ」というセーフティネットがあるからこそ、自発的に課題に着手できる、解決当事者としてリスクをとる社員が生まれやすくなる。

参謀機能を育てる(味方として経営と厳しく向き合う社員の存在が改革のテコになる)

前職でのコンサルティングとの大きな違いは、今回の取り組みが経営の意のままに一方通行で展開されるのではなく、社員もまた経営と同じ思いで問題に向き合い、互いにきちんと意見を交わすことのできる信頼関係に基づいた「協働」になっていることである。
通常どうしても経営層には、現場の社員の気持ちや置かれた状況は見えにくい。同じように社員からも、トップの抱える悩みや経営上の問題はうかがい知れない。その双方が、互いの立ち位置から見える景色を共有し、会社のためにお互いを主役にし合えるような関係を築いていくことで改革は進みやすくなる。

最初の3カ月が経過したところで、7人のマネジャーで構成された課題解決チーム、5人の一般社員層による業務効率化を進めるチームが自主的に動き出している。彼らが主役になって、何が問題なのか、原因は何か、解決のための行動をどう起こしていけばよいのかを経営メンバーと共に考え、行動し始めている。

私は、1年後には何としても、経営メンバーとの3つの約束を果たしたいと思っている。