日本企業のダイナミック・ケイパビリティと組織開発の未来を考える|スコラ・コンサルト

5 「分断」の危機に瀕した日本企業の現場力を守れるか

菊澤:ただ、ちょっと残念というか不安要因といえば、今は企業が単なる労働力としての非正規労働者を増やしていることですね。その結果、現場のつながりや結束が弱くなってきている。そうすると何が起こるかというと、やっぱり不祥事ですね。これから先を考えると、組織能力という点では微妙なところがありますね。さらに、前に言ったジョブ型雇用や評価などに移行していくと、なおさら社内分断化に拍車がかかります。アメリカ式をキャッチアップすることで生じてくる水面下での組織の分断が、組織を硬直化させ、逆にいうと、日本企業の良き文化を壊すような事態を招くことにもなります。社内が分断社会になってしまうというか。
それに加えて、IT化は中小企業の現場にまでどんどん進んでいます。PCを使えばネットでなんでも調べることができる、社内の情報だってすぐ集まると思われるんですけど、そうじゃないですね。PCを使って情報を集めると、自分の好きなもの、関心のあるものしか見ないし、AIもそのように働いてくるので、見たくないものは見ないで済むという形で情報の偏在化が起こります。製菓機械メーカーの社長の話のように、結局、社内で個々人がタコツボ化していくことになります。

三好:実感ですね。私たちは30年以上前から組織風土改革という名の組織開発をやってきましたが、その初期の頃からすでに組織崩壊というか、職場がバラバラで個人が孤立していく状態は深刻な問題でした。それをつなぐための対話をはじめとする密な組織技術を体系化してきたほどです。でも、今はそのときを上回る次元の分断要因が出てきていますね。

菊澤:今の話で思い出したんですが、ゼミの学生間でも面白いことが起こるんです。たとえば、教科書のこのページまで要約して、かつ、その中身を具体例で応用しろという課題を与えて、共同作業でやるように指示します。すると、このページまではAさん、Bさん、最後の応用事例はCさん一人で、というふうに分業するチームが出てくるんです。確かに、その方法は合理的ですが、おしなべてそれをやったチームの研究内容が薄いんですね。意見をぶつけ合って議論していないし、やっていることに対して共同責任の意識もないので、応用事例にしても面白いものが出てこないんです。
表面上はチームだけど、中身は個の寄せ集め。これは最悪ですね。うまくいかないチームというのは、安易に役割分担してしまうんですよね。チームという名の役割分担、分断化された積み木のような組織になっているわけです。 

三好:分業というのは、協業のための分業ですからね。

菊澤:そうなんですよ。今の分業の流れが、そうなっていないのが嫌な感じなんです。
最近、たまたまNHKでeスポーツの番組を観たんですが、最近の強豪国というのはパキスタンとかアフガニスタンとかの途上国なんですね。日本人はなかなか勝てない。その理由を解き明かそうとしてNHKが出した一つの答えが面白いんです。アフガニスタンやパキスタンの競技者は、個人でPCを持っていないので、ゲームセンターに集まってみんなでプレイするわけです。そこでは、一緒にやりながらメンバー同士で侃々諤々の議論をし、相互に弱点を指摘し、それを克服するようにプレイを続けていく。そのやり方のほうが早く進歩するということに気がついたという話なんです。一人でプレイするよりも、他者から批判されたり、いろいろ弱点を指摘してもらったりしてプレイするほうが相互に進化しやすいみたいだというのです。グローバルなIT企業なども、意外にリアルなチームの良さを意識しているように思います。 

三好: Googleのような先進的な企業でも協働的なカルチャーづくりには力を入れていますね。

菊澤:Googleも気がついていますよね。一時は天才を重視するとか言っていましたけど、今はチームワークを重視していて、よく見ると昔の日本企業みたいです。大部屋方式で、しかも必ず会社に来いという条件。そのために、社員食堂をタダにしています。家族を連れてきてもみんなタダです。いろんな種類のお菓子やゲームまでそろえています。

三好:お互いが協力できるようなチームづくり、仲間として一緒に仕事ができるような組織づくりに経営が本気で取り組んでいますものね。やるとなると徹底している。

菊澤:やはり文化的なもの、文化の問題ってすごく大事だと私は思いますね。アメリカの場合は、民族も文化も多様化していて共通の文化的な基盤がないので、唯一、金銭的価値つまりドルが共通点になっています。本当のいい文化というのはそうじゃないんですよね。やはり日本の会社というのは、損得計算ではなく、「この会社が好きだ」という価値判断をする人の集まりだったから強かったと思います。だから会社が危なくなっても辞めないとか、自分の会社が好きだという人によって価値が形成されていたんですね。それが、ある種の企業文化をつくっていたという感じがします。

三好:企業を変えるというとき、特に文化の問題が企業の基本的な動き方とか価値観とか、その企業の存在意義などとも関わってくる。あるいは、オンライン化や副業などが進むと社員の帰属意識にも関わってくるので、そこをすごく重視して光を当てているんです。
これからの企業では、非正規雇用の人も、テレワーク人口も増えていく流れは止められないでしょう。だからこそ、雇用形態やワークスタイルの違いはあれども、いかにそこで協力して新しいビジネスをつくっていくか、組織の協働を支える文化をつくっていくやり方みたいなものが求められてくるのではないかと思います。

 

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