私は日本人の特性について、本来とても創造性に富んだ気質であると考えています。さかのぼれば異彩を放つ縄文文化に端を発し、歌舞伎や能などの伝統芸能、破調の技法が西洋芸術に衝撃を与えた浮世絵、生活に根ざしつつ美と工夫を極めた伝統工芸や庶民生活に溶け込んだ民芸。そして今日、世界を席巻しているマンガ・アニメ、キャラクター文化など、日本の歴史には豊かな文化的成果としての創造の産物があふれています。また日本は、ノーベル賞のパロディーとして創設されたイグ・ノーベル賞に今年も受賞者を出した常連国でもあります。
このように庶民のレベルにまで創造性が浸透した文化を持ちながら、日本企業の創造性の弱さがたびたび指摘されるのはなぜでしょうか。この矛盾には、何か理由があるはずです。
その背景には、日本企業に特有の要因ともいえる、人の創造性を発揮しにくくしている組織文化の影響があることは否めません。私たちが「調整文化」と呼んでいる序列規制の強い組織の“出る杭”を嫌う横並びの文化、合意主義の意思決定、安定重視で失敗をマイナスとする心理的安全性の低さなどが、創造性にフタをしているかもしれません。
さらに、失われた30年を通じて、コストカット主導の経営が続いたことによる挑戦心の萎縮も顕著です。短期的な利益を追求するあまり、リスクを避け、安全策を選ぶ姿勢が組織に浸透してしまったのです。
それでも悲観しすぎる必要はありません。日本社会や組織のムーブメントが変わり、時代に合った新たな環境づくりができれば、自分たちが本来持っている創造性がいかんなく発揮されるようになると私は考えています。
実際、日本企業の組織、職場がすべて創造性に乏しいわけではないのです。
かつて、井深大氏が書いたソニーの設立趣意書には、意訳になりますが、次のようなことが述べられています。