最近あらためて組織開発に関心が向けられている背景には、デジタル時代の劇的な経営環境の変化に対する危機感や、新時代を先取りする『ティール組織』『対話型組織開発』といった最新の組織論や組織開発の専門書が今年、相次いで出版された影響もあるでしょう。

先日、日本の組織開発研究の第一人者である南山大学教授の中村和彦さんと“日本の組織開発の現状”について意見交換する機会がありました。『対話型組織開発』の訳者であり、秋に出版された『組織開発の探求』の共著者でもある中村さんとは十数年来のおつきあいです。
これまで多くの企業と関わってきた中村さんにとっても、目下の状況は“本気度が違う”加熱ぶりのようなのです。

企業が自力で「自分たちの組織」をつくるステージへ

私たちが企業の方の話を聞いても、組織開発の取り組みに対するニーズや考え方がこれまでとは明らかに変化していると感じます。
かいつまんで言うと、いわゆるスポット的なツールの導入による部分的な解決ではなく、持続的な組織進化のための取り組みとして自分たちで戦略的にやれるようになりたい、という要請が多いのです。

近年の日本企業における組織開発の取り組みをみると、ワールドカフェやAI、オープンスペーステクノロジーといった手法を、研修やワークショップなどのイベントに導入し、そのイベント設計とコーディネーター役を外部の組織開発コンサルタントに依頼する、というパターンが一般的でした。

ところが、ここ2年ぐらいでその傾向に変化が見られます。それを整理すると、

1.単発的な手法導入やイベント実施ではなく、組織を企業ビジョンに合わせてトータルに、かつシステマティックにつくり変えていく方法論を手に入れたい。

2.外部コンサルタントに委託するのではなく、自社で独自に展開する能力を持ちたい。

こうした組織開発への新たな期待、ニーズの変化は、「自分たちの組織は自分たちでつくっていく」という組織開発本来の趣旨に立ち戻る、地に足のついたものだと思います。

日本企業が組織を手づくり開発していた時代があった

実は、自分たちの手で組織の開発に積極的に取り組もうという日本企業の試みは、今回が初めてではありません。

日本の経営史をあらためて振り返ってみると、高度経済成長期と呼ばれる1960年代から70年代にかけては、日本の企業が自分たちの経営のあり方を摸索しながら、各社が「自社の勝ちパターン」の研究と構築に惜しみなく投資をし、手をかけていた時代でした。

「日本的経営」の特性とされる終身雇用、年功制、企業別組合といった経営システムを構築する一方で、はるかに前を走る先進国から貪欲に学びながら、トヨタのかんばん方式、QCサークルなど、オリジナリティあふれる日本ならではの経営や生産、マネジメントのシステムが生み出されたのもこの時期です。

今様に言えば、全社一丸となって国際競争に勝っていく、まさにそのエンジンである組織を企業が主体的にデザインしていた時代でした。

特に、70年代初頭に起きたオイルショック以降の厳しい経営環境を乗り越えるために、多くの企業が「自社の勝ちパターン」を求めて、管理者研修や組織ぐるみの教育訓練という形で独自の組織開発に取り組んでいました。(この頃の状況は中村さんの著書に詳しく書かれています)。

その努力の結果、80年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるまでに、日本企業が持つ経営システムやチームワークを特徴とした組織システムなどの強みが世界から注目を集め、研究されるようになりました。

それも束の間、バブル崩壊とともに90年代から始まった「失われた10年」の間には、合理化の名のもと、日本の経営は投資縮小、コスト削減、短期業績志向、企業丸抱え施策の廃止、人員削減など萎縮した守りの経営に入っていきます。

これに伴い、「自社の勝ちパターン」を自主開発・構築する努力や投資も削減対象になっていき、日本企業の経営や組織が持つ“強みのプロセス”がどんどん失われていきました。すでに平成も終わろうかという時代になっても、多くの日本企業が委縮した守りのパターンから抜け出せずに今日に至っています。

知のリソースを高度に活用するポスト平成の経営

ところが、最近、「自社の勝ちパターン」をあらためて構築しようという動きが起こってきています。前にふれた「組織開発」への関心の高まりとニーズの変化はその兆候と言えるでしょう。

実際、「組織開発」の相談に来られる企業の多くは、業績が悪いわけでも、不祥事を起こすような劣化した組織風土を持つわけでもありません。「イノベーティブな組織」「多様な人材が集まる魅力的な企業文化」「働きがいのある会社」をつくりたいというポジティブな理由から、自社のありたい姿を実現するための戦略的なアプローチとして「組織開発」の展開が位置づけられているのです。

こうした企業ニーズの背景には、年々複雑さを増すビジネス環境の不確実性を直視した現実認識があります。

今日、「イノベーション」は持続的な経営の「勝ちパターン」を築く上での基本コンセプトです。そのために、多様な人材が互いの特性を生かし合って協働し、新たなものを生み出し続ける文化や環境をいかにつくっていくか。それを可能にする創造的な組織の実現が、世界的に見ても経営の関心事になっています。

実際に、グーグル、NETFLIX、IDEO、ユニリーバなど、多くの先進的な企業が多様性を事業創発に生かすため、対話の文化や信頼・協力関係、チームワークを醸成する仕組み・仕掛けづくりなど、経営戦略としてのイノベーティブな組織づくりに積極的な投資をしています。

そのアプローチとしての組織開発には、従来のような部分的で単発的なイベントや手法のスキルだけでは足りません。
企業のありたい姿や経営戦略に基づき、さまざまな手法や技術を組み合わせ、組織というシステム全体をデザインしていく「人間系システムのインテグレート力」や、そのプロセス全体を俯瞰して「プロデュースする力」が新たな経営の機能として求められるようになっています。

「風土改革」の名のもとに続いてきた日本生まれの組織開発

中村さんの著書では、スコラ・コンサルトが90年代の終わりから手がけてきた「企業風土改革」のアプローチが「日本生まれの組織開発」として紹介されています。スコラ・コンサルトは、それまで日本企業が築いてきた経営や組織の強みを生かしながら、それぞれの企業がめざす“経営のありたい姿”を実現する、トータルな組織づくりのお手伝いをしてきました。

実は、世界的に見ても組織開発の技術は対話の場やイベントのデザイン、コーディネートに関するものが多く、企業組織をトータルに見て新たにつくり上げていく「人間系システムのインテグレート」や「プロデュース」の方法論や実践例はあまり多くありません。

そうしたマクロの組織プロセスをデザインできる実践的な知見と技術を持つ人材やコンサルタントは、日本国内でも本当に数えるくらいしかいない、というのが中村さんと一致した認識です。

手軽に買って済ませるわけにはいかない、それだからこそ、「自社の勝ちパターン」や「自分たちの組織をつくる力」を獲得した企業がこれからの勝ち組になれるということです。
その手間隙や時間を惜しまず、イノベーション経営の基盤となる創造資源としての「組織」をつくる。経営戦略として自社の組織能力を高めることに投資をする企業が、今後も増えてくるものと期待しています。