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1.強い日本経済、復活のカギは?
昨年は、強い日本経済復活を掲げる新政権の発足、株価の最高値更新、日銀の政策金利引き上げ、業績好調企業の増加、賃上げ機運などもあり、長期デフレからの脱却への期待が芽生えた年でした。同時に、第二次世界大戦後80年間に形成された世界秩序が地殻変動をはじめ、地政学的リスクと世界経済の不透明感が一層高まった年でもありました。
年が明け、国内政治が新たな局面を迎えて、ますます混迷が深まる中で、日本の2026年は経済復活の年となるのでしょうか。
このような予測困難な経済情勢において企業が取りうる対応は二つ。一つは、環境に働きかけて自らに有利な状況へとコントロールすること。二つ目は、環境変化に適応する能力を高めて自らを変化させることです。
前者は一企業だけでやることは困難であり、現実には後者、すなわち自社の能力を高め、自らを変化させていく以外にありません。
この「環境変化に柔軟に対応しながら成長・進化していく組織能力」は、ダイナミック・ケイパビリティ(*1)と呼ばれ、企業の持続性と競争優位性の中核になるものとして研究と獲得のための投資が欧米中心に進んでいます。
近年、私たちのところにも、全社的な経営戦略として組織能力の再構築に取り組もうとする大企業からのご相談が増えていますが、まだまだごく一部に限られているのが日本の産業界の現状です。
世界が多極化へと進む歴史的な変化点となりそうな2026年。不確実な時代の変化に適応した「組織能力の再構築」に投資をし、本腰を入れて取り組むことが日本企業にとって喫緊の経営課題なのです。
2.高度経済成長期に盛んだった組織能力向上への投資
昭和の日本で高度経済成長の原動力となったのは、製造業を中心とする日本企業の高い組織能力でした。日本のメーカー企業は、先行する欧米の技術や製品を迅速に取り込み、「すり合わせ型」で設計・生産技術・製造・品質保証が連携し、現場も工程・品質改善に参画することで、品質・コスト・リードタイム面で欧米メーカーを凌ぐモノをつくり上げて市場を獲得していったのです。
こうした優れた組織能力は、長期雇用と協調的な労使関係、OJTやローテーションによるマルチタスク型人材の育成、現場への権限移譲、帰属意識の醸成、品質管理運動や小集団活動の展開、高密度な人的ネットワークの構築などによって、意図的に築き上げられたものでした。石油危機、貿易摩擦、ジャパンバッシング、円高といった試練に際しても、外部環境の変化に応じて組織能力をアップデートすることで困難を克服してきました。
当時の日本企業は、ダイナミック・ケイパビリティを発揮して、キャッチアップ戦略に合致した組織づくりに資金・時間・労力を注いでいたのです。
3.組織能力が更新されずに停滞を始めた「失われた30年」
ところがバブル崩壊後、新たな経営戦略への転換とそれを支える組織能力の再構築に投資し取り組む企業は大きく減ってしまいます。その理由として、これまでのキャッチアップ戦略に代わる戦略を見いだせなかったこと、株主重視経営の導入によって短期的な株主利益の追求に集中し、それ以外への投資が抑制されたこと、コスト削減一辺倒の消極的な経営が常套化したこと、などが挙げられます。
一方、自社に不足する技術・リソース・能力を補うためのM&A投資がこの時期に盛んに行なわれましたが、足元の職場・現場レベルの組織能力の再構築にまでは手が回らず、なおざりにされるケースが多くみられました。
結果として、今もなお多くの企業が昭和・平成期の旧バージョンのOSで動く組織を抱えているというのが現状だと思います。
4.変化の動きが出ているものの「人材投資」どまりの現状
しかし、「失われた30年」の区切りとなる2020年前後から、こうした状況に変化の兆しが見え始めました。
この頃から大企業を中心に、「組織開発」を導入し、専任部署を置いて全社施策として取り組む企業が増えてきました(*2)。また、国も「人的資本経営」の指針を2022年に発表し、人や組織といった“見えざる資本”への投資を積極的に推進しています。
これらの動きが出てきたことは良いことですが、実際には、本筋から外れた残念な取り組みになってしまっているケースが多く見受けられます。「組織開発」と言いつつ、対話手法の導入や一時的な職場活性化活動といった部分的な取り組みにとどまり、戦略的な組織能力の構築にまでは至っていない事例が後を絶ちません。
さらに、もともとの国の人的資本経営指針自体が「個人」をターゲットにした人材戦略・人材投資に偏重していることもあり、受け身的に人材投資の対応をするだけで、本来の組織づくりや組織能力の再構築への投資や施策がおろそかになっている企業も少なくありません。
その背景には、「組織とは何か」ということへの現実的かつ深い理解と、組織能力を構築しアップデートしていくための知識や実践的な技術が欠如しているという、根本的な見落としがあります。
5.組織能力を構築するためのナレッジと実践の技術を獲得する
組織は単なる個人の集合体ではありません。組織には、「個人の能力」を引き出し、その総和以上の「組織の能力」につなげていくためのさまざまなプロセスが常に働いています。たとえば、組織の中で行なわれるコミュニケーション、個人間の情報のやりとりや現状認識のすり合わせ、目的の共有、役割の確認、モニタリング、フィードバックなどの協働に必要な相互行為です。これらの相互行為は「協働プロセス」といわれます。
組織能力を構築しアップデートするためには、このような個人同士をつなぎ、「個人の能力」を「組織の能力」につなげるカギとなる「協働プロセス」にアプローチすることが不可欠です。
こうした「協働プロセス」にまでアプローチして組織システムを構築し、経営環境や戦略に応じて組織能力をアップデートさせていく技術が「組織技術®」です。
6.時代環境と「めざす未来」にフィットする組織と組織能力を育てる
「強い日本経済の復活」のカギは、日本経済が強かった昭和時代の組織能力をそのまま復活させるということではありません。「失われた30年」の間に、経済情勢、産業構造、人口構成、労働の価値観はもとより、AI技術の進歩によって価値創造の仕方や協働のあり方は大きく変わっています。こうした諸条件の変化と、創ろうとする未来の「ありたい姿」に合わせた新たな組織能力の構築が必要です。
これまでに私たちは、組織の本質に関する知見と、試行錯誤の実践によって蓄積し体系化された「組織技術」を、組織ケイパビリティ開発(*3)や企業風土改革の取り組みを通じて提供してきました。
日本経済の復活は、新たな付加価値やビジネスを創出する企業自身の能力にかかっています。これまで以上に、私たちが持つ「組織技術」をより多くの企業人と分かち合うことで、日本経済復活に貢献できることを願っています。
*1「ダイナミック・ケイパビリティ」についてはこちら
*2 経営戦略として「組織開発」に取り組む企業事例はこちら
*3「組織ケイパビリティ開発」についてはこちら
※「組織技術」は株式会社スコラ・コンサルトの登録商標です。
