
インタビュアー
岡崎愛[株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー]
自分たちの範囲をどう広げるか
岡崎:技術革新部は2023年3月に風土改革の活動をスタートし、みなさんはグループ・マネジャー(GM)と技術専門職のエグゼクティブ・エキスパート(EE)として、部門のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を新たに策定する活動などに取り組まれました。
活動がはじまる前は、それぞれのお立場でどのような問題意識があったのでしょうか。
家﨑さん:技術革新部には3つのグループがあって、私はメカと将来技術を担当する1グループのGMでした。当時、大きな課題感があったのは、メンバーが閉じた状態だと感じていたことです。個人もしくは少人数のチームで仕事が完結するので他の組織との連携が少なく、結果として成果の範囲が限定的になってしまうんですね。
私たち1グループは3チームに分かれ、それぞれ機能が違うからチームを越えて積極的に連携することは少なく、2グループと3グループとの壁はもっと高いわけです。他のチームやグループが何をやっているか、どんな人がいるかも知らない状況がもったいなく見えました。

もともと技術革新部は、事業部の開発部門で各機能をもっていたメンバーが集まったという経緯があるので、自分たちで仕事がこなせる状態でした。だから「同じ部門だからもっと連携しよう」と言われても、目の前の仕事はできており、連携が必要であれば行なっている、積極的に連携することの必要性は感じられないわけです。
しかし、経営環境に合わせて会社が注力する事業が変わると、従来の役割を果たすだけでは乗り越えられない課題も出てきます。自分たちだけでできることに囚われず、必要なことは何かを広い視野で捉えてもらいたい、そのためにもまずは同じ部門のなかから繋がっていくことが必要だと考えました。
この活動の前からも、メンバーとコミュニケーションをとりながらいろいろ取り組んでみたものの、個別の対応だけでは変化は大きくありませんでした。あらためて自分たちの組織を見つめ直し、メンバー一人ひとりと向き合っていけるかは活動の中心テーマだったと思います。
内田さん:グループ内の会議はチームリーダー(TL)だけが集まって、メンバーは参加しなかったですからね。
家﨑さん:月1回の業務内容説明会、TLが集まる技術リーダー会など、横のつながりができる場はありましたけど、発言や質問は期待したほどなかったですね。
とくに将来技術は、専門性の範囲だけで考えても、クリエイティブな発想は出にくいものです。仮に新技術を発想しても、価値につなげるためには自分たちの範囲外の技術も必要となる、そうなると横の連携が重要になります。
新しい価値を生みだすにはコミュニケーションは不可欠で、個人単位で考えるとテーマがどうしても小粒になってしまう。自分たちの範囲から飛びだすのは難しいですし、逆に飛びだしすぎて会社の貢献から離れてしまうこともあります。
枦山さん:私は開発企画、開発管理などの企画・管理・運用業務を担当する3グループでGMを務めていました。私たちのグループは、開発プロジェクトのルールを決めるなど、ものごとを俯瞰的に見る必要があって、ベテランが中心でした。私がGMになったときはグループのメンバーのほとんどが年上で、50代60代の方が中心でした。
メンバーと私が頭を痛めていたのは後継者問題です。グループ内に若手・中堅メンバーが在籍しておらず長く引き継ぎ先がない状態で、ベテランは「自分が体調を崩したら、この仕事はどうなるんだ」という不安を常に抱えていました。
特定の人が長く同じ業務を担当しており、業務の本質を簡単には伝えられないことが問題でした。

松浦さん:私は技術専門職のエグゼクティブ・エキスパートで、現在は信頼性設計を担当しています。製品設計において、いかに信頼性を高くするかという分野です。
私は入社からしばらくは、製品のメカ開発を担当していましたが、製品の信頼性にかかわる領域はメカだけではありません。自分の専門外に問題があれば、その分野を勉強して解決することになります。ですから、他の技術者が「私はメカが専門です」「電気専門です」と自分の領域を決めてしまうことに違和感がありました。自分の範囲を狭くとらえないで、やりたいことをやればいいじゃないかと。
私が専門外に踏みだすときは、その分野の専門家に教えを請いにいきます。積極的に動かなくては、狭い領域から脱けだせないのは当然です。だから「みんな積極的に自分の技術領域を広げないと、次世代技術は開発できないぞ」という問題意識がありました。とくに若い技術者は、自分がやりたい領域や興味のある領域にどんどん進出すべきです。

しかし若手にいくら話しても、私の考えは伝わりませんでした。「松浦さんの言ってることはよくわからない」と言われる始末です。
私がこの活動に参加したのは、風土改革に不可欠な「言語化」に着目したからです。お互いの想いを伝える「対話」があり、組織が大切にする価値観を言語化したミッション、ビジョン、バリューがある。よくわからないと言われてしまった私の考えも、対話や文章を通してうまく言語化できれば、若い世代にも伝わるかもしれないという期待がありました。
2005年入社。
各事業製品に使用するモーター制御技術やレーザープリンター定着器の熱制御技術などの開発に従事したのち、メカトロニクスと将来技術の開発を担当する1グループのグループ・マネジャー(GM)を務める(技術革新部当時)。