インタビュアー
岡崎愛[株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー]

 

 

取り組みの流れ


個人商店化と貢献が実感できない悩み

岡崎:技術革新部の風土改革は、私たちプロセスデザイナー(PD)から見て、活動に参加された方たちの自発性、積極性が非常に高かったことが印象に残っています。とくに事務局のみなさんは問題意識が強く、職場の課題がよく見えていたと思います。活動前はどのような問題意識があったのでしょうか。

内田さん:初めは、部門の役割や業務の進め方から生じた問題や課題が中心だったと思います。技術革新部は事業部ではなく、各事業部を横断的に支援する技術部門という位置づけでした。未来の製品やサービスに役立つ技術の先行開発が重要な役割で、事業部の開発者が技術課題に直面していれば問題解決をサポートすることも仕事でした。
組織図でいえば、部門長の下に3人のグループ・マネジャー(GM)がいて、各グループには数十人のメンバーがいました。ただ、メンバーの業務は他部門のサポートが中心ですから、グループ内で横の連携はほとんどないんですね。グループ会議で業務の進捗を報告しあっても、お互いよくわからない。職場で技術について語り合うどころか、雑談もあまりなくて、みんな自分のパソコンに向かって黙々と業務を進めている。「図書館みたいだね」と言うぐらい静かな職場でした。

三輪さん:チームワークや助け合いがない環境に、ストレスを感じる人たちはいました。孤立感から、いつもモヤモヤを抱えているんですね。自分の業務や技術を知ってもらいたい、という気持ちは誰しもあると思います。

楊さん:お互いに業務の中身が見えないから、進捗が遅れて困っている人がいても手助けできないし、自分が困ったときも応援を頼めない。コミュニケーションがわるい環境がストレスになるのはわかりますね。

内田さん:業務の性質からみんなが個人商店化して、チームを組む状況はほとんどない。それでも、以前はコミュニケーションを活発にしてくれる人たちがいました。ムードメーカーが異動や退職で職場からいなくなった影響もあると思います。

三輪さん:もうひとつ「貢献の実感がない」という問題がありました。風土改革の取り組みがはじまる前、2018年に15人ほどで働き方改革について話しあう場があって、「自分が会社にどう貢献しているかわからない」という意見が出て、共感する人たちがいました。事業部の技術課題を解決すれば「ありがとう」と感謝される一方で、会社への貢献度は実感しにくいですね。この悩みは、わりと共通していました。
職場でコミュニケーションが少ない、貢献が実感できないという2つの悩みは、お酒を飲みながら話すテーマでもありませんし、解決策を話しあう場がなかったんです。

やらされ感からイノベーションは起こらない

岡崎:私たちがお手伝いすることになったきっかけは、当時GMだった岩田さんが2022年7月に当社のオンラインセミナーに参加されたことでした。風土改革への理解を深める内容で、終了後に講師の山科へ岩田さんから「意見交換しましょう」と連絡があり、ご自身が考える職場の課題などを話されました。
私たちがセミナーで強調したのは、新しい価値を生みだす組織とは? ということです。効率化や生産性を高めることはもう限界に達したから、新しい価値を生みだす方向へ舵を切る必要がある。やらされ感や義務感からイノベーションを起こした人はいない。一人ひとりが自分の仕事に強い想いをもって取り組まない限りイノベーションは起こらない、といった内容です。
技術革新部はまさに新しい価値を生みだす部署ですから、岩田さんの問題意識に響いたのかもしれません。

内田さん:そうだと思います。技術革新部はもともとメカ基盤技術を先行開発する小さな部署でした。2000年代半ばにのちの部門長となる人が組織をつくり、私が転職してきた08年頃は十数名で、その人の名前が付いたチーム名で呼ばれていました。
次世代技術の開発テーマは、上から与えられるものではありません。技術者が「将来この方向に進むのではないか」と自分でテーマを見つけ、開発にチャレンジするのが基本です。初期チームの頃は少人数だったので、この価値観がわりと共有されていたように思います。
それから15年の間に、組織再編が何度かあり、事業部からの異動や新卒採用で大人数を有する規模になりました。現在の技術課題を解決する仕事の割合も増え、古くからのメンバーは、先行開発部隊の価値観を伝えきれないところがありました。

三輪さん:初期チームの時代を知るメンバーはギャップを感じていたんでしょうね。技術のイノベーションはすぐに答えが見えない取り組みですし、いつ報われるかもわからない。貢献実感はもともと得にくい業務ですね。
セミナーの翌月に山科さんたちと意見交換したときは、私も同席しました。岩田さんからある日突然「こんどミーティングがあるから同席してください」とだけ言われ、何のことかさっぱりわからないまま参加しました(笑)。私は17年頃から部内で女性活躍推進や働き方改革の集まりを開く幹事役だったので、風土改革に関心があるのだろうと見ていたのだと思います。
実際にスコラさんとのミーティングに参加して、先ほど話した問題や課題の解決策になりそうだという期待はありました。

岡崎:あのミーティングで確認できたのは、組織を活性化させる源泉は、一人ひとりの「こうしたい」という想いなのに、その想いがなかなか出てこないという問題意識です。裏返せば、これまで「こうしたい」を考える機会や語る場がなかったんですね。
技術革新部のミッションは、次世代技術という新たな価値を生みだすことです。新たな価値は「想い」がなければ生まれません。なぜ「こうしたい」が出てこないのか、その根源にある問題について、まずはブラザーさんの社内で話しあってみてくださいと私たちはお伝えしました。

楊さん:私が声をかけていただいたのはその頃で、三輪さんたちの女性活躍推進や働き方改革の集まりに参加していたからだと思います。三輪さんと私は風土改革の進め方を委ねられた格好でした。22年11月にはスコラさんと2度ミーティングし、おおまかな活動計画を立てました。翌年3月に活動がスタートするまで準備を進めていきました。