本音を引き出すには、まず関係性をつくることから
ー オフサイトミーティングで論じ合う取り組みをしばらく重ねてきて、工場内での変化の兆しはみられますか?
平澤さん:はい、ちょっとしたことですが、兆しはあります。午起一課で、朝は日勤者と交替者が一堂に会してミーティングを行うのですが、「日勤者がパソコンばかり触ってると、ミーティングの雰囲気が良くならない」という意見が出ました。今では、そうしたことにも気をつけたことで、全員が互いの顔を見て、態度もやわらかくなり、以前とは異なる話が出たり、相談し合えるミーティングになりました。
課題を見つける視点を持っている人って、けっこうわかるんですよね。普段から聞いてくることなど、仕事への意識が高い。そういう人に自分がどんどんアプローチして、その周りにおる人も取り組みの輪のなかに入れていきたい。
今、自分は交替勤務から離れてしまいましたが、時間のあるときには交替者に積極的に「最近どう?」などと話しかけて、フォローをするよう努めています。「(変化の)芽が見えたか?」というと、まだそれほどではないですが、もともと仕事に対する思いを持っていた人が、少し動き出したかなと見ています。
各交替班で勉強会をする機会があって、その後フォローで新入社員に話しかけてみたら「毎日勉強するようになったんですよ」と聞いて、「(こちらからのアプローチが)間違ってなかった」と感じ、嬉しかったです。目的を持って勉強したり、周囲からフォローしてもらえる機会がなかっただけなのかなとも思います。
田口さん:交替勤務をしていると、本当に他の課と仕事の話をすることがなくて。工場長・副工場長との対話会もありますが、実際のところ「副工場長の顔もあんまり(わからない)…」ぐらいのレベルでした。本当に会社の人と接点がないので、「どんな仕事の取り組み方をしているか」と相互理解する機会がありませんでした。
だから対話会などは、ほかの課でも「あの人、こんな考えなんや」「こういう考え方もあるんや」など、いろいろな考え方や想いを知れる機会だったと思います。
平澤さん:自分は改革前から、「まずは雰囲気をどうにかせなあかんな」と思って、いろんなところでマインド教育をしてきました。仕事を教える以前に、仕事に対する向き合い方やマインドを、若い子・同年代・上の人に対しても、ずっと伝えてきました。「仕事に来て給料をもらう以上、最低限やるべきことはやらなきゃね」といったマインドの部分が底上げされない限り、何を教えても伝わらんのかなと。正直なところ、今までは一方通行で、通常業務のなかで相互理解をしたり、意見交換したりする機会がなかったので、これからは本音での対話や相互理解の場をどう広めていくか、が大事だと思ってます。相手に対して「どうしたら伝わるか?」を常に考えて、「聞く力」を今は大切にしています。
田口さん:今後、自分の部署では、同じような思いで仕事に対して前向きな人をどんどん増やしていきたいと思っています。「会社の一員として求められていることに対して、少しでも行動できるように」と一人ひとりがやっていけたら、自ずとちゃんと仕事をする良い雰囲気に変わっていくんじゃないかと期待しています。
ただし、コアメンバーが周囲へフォローできていないと、活動が停滞して全員が同じ方向を見て進んでいけない感じもあるので、マインド教育や日頃からの意見交換が大事だと思っています。
平澤さん:部署としてまとまってはいるんですけど、ちょっと放置すると連帯感が弱まっていく危険性もあると見ています。だから、当面はコアメンバーがちゃんとアクションし続けていかないといけないと思っています。一人で言い続けるのはすごく大変なので、いかに仲間を増やしていくか、が重要だと考えています。その広がりが会社のためにもなっていくだろうし、一人ひとりのレベルアップにもつながると思います。こちらからのアプローチが響く人もいるんですけど、響かない人にどうアクションしてくのかも日々考えながら取り組んでいます。

ー 管理職としては、自部署の変化をどのようにご認識されていますか?
二本松部長:所属メンバーのことをわかったような気持ちになっていましたが、実はまったくわかっていなかった、一方的な見方しかできていなかったと感じました。班や職場単位で話を聞かないと、誤った判断とかプランを立ててしまうことになってしまうんです。話し合うこと、相手を理解することが、いの一番なんだな、と改革の取り組みを行ないながら感じています。
たとえば、工場内での製品サンプル受け渡し時の人的ミスが激減しました。具体的には、品質管理部門に製品のサンプルを提出して検査をしてもらい、それにもとづいて運転調整をしていくんですが、「サンプルの容器が汚れている」あるいは「容器の蓋が開いて漏れていた」などの不具合が頻繁に発生していました。ひどい場合は、「サンプルの出し忘れ」さえも。それも、午起一課だけが突出して多かった。それが、今年に入ってから激減しています。聞いてみると、こうした問題を解決するために意見交換が行なわれ、「サンプルを採取する人、チェックする人の2人体制で行う」方法に変えたということでした。先輩のチェックはあるものの、「自分が責任を持ってやるべき仕事」といった認識が深まった象徴的なエピソードだと思っています。
松岡部長:当社は石油化学メーカーとして、さまざまな産業に製品を供給していますが、現場で働く社員からはエンドユーザーの存在や反応が見えにくいため、自身が担っている業務や役割、その目的・価値に気づけなかったり、見失ってしまったりすることも少なくないと思います。同じように、隣の人や部署がどんな考えや想いで仕事をしているのかも無関心になってしまう可能性があります。ですので、対話を通して仕事相手の理解が深まることで、こうした人的ミスや生産トラブルを減らす効果につながったのかもしれません。

二本松部長:午起一課のコアメンバーが声をかけ続けてきたことで、「やるべきことをきっちりやろうよ」という働きかけが浸透して、目に見える形で変化を感じています。ヒューマンエラーをゼロにすることは難しいですが、以前はたびたび発生していた生産トラブルがしばらく鳴りを潜めていますし、「良い雰囲気が、みんなの気持ちや行動を変えているんじゃないのかな」と思っています。ただ、部署としてアクションプランに対する取り組みはまだまだこれからですので、良いところは「できてるよ」と伝えながら、今後につなげていきたいと考えています。
ー 四日市工場全体を広く見渡して感じられる変化についてはいかがですか?
松岡部長:2023年7月以降、年1回、工場内の独自アンケートで定点観測しています。2024年はほとんど変化がなかったのですが、2025年は組織風土に関する項目はじめ主要な項目で有意に改善が見られました。とても嬉しかったですし、少しずつでもみんなの言動が変わっている、変わる兆しが見えてきていることをとても心強く思っています。
木下さん:でも、何もしなかったら、意見も何も出てこなかったと思います。こういう仕組みを入れることで、やっぱり出てくる芽はあるのではないかと思っています。
津坂さん:「部署間の取り組みが増えてるのかな」という印象はありますよ。部署をまたいでの活動や、対話って大事だよねって。
眞野さん:「対話」という言葉がいろんな局面でよく聞かれるようになった気がしていて、管理職の方々が部下と対話する機会が増えているのも一因かと思います。私自身も、少し広い範囲に向けて話しやすくなり、働きかけやすくなったと感じます。
山野さん:小さな変化ですけど、フィードバックを求めたときに、みんなから「何かわからんけど、話せてよかったわ」って声はよく聞くような気がします。「根っこはもしかすると普段の自分達のミーティングのやり方にあるのかも?」と、どんどんやればやるほど、そう思えてきました。自分自身は「聞き出すスキル」がまだ追いついていないと感じているので、今後は「聞き出す力」を磨いていきたいです。
眞野さん:改革は道半ばというか、まだ始まったばかりだと思っています。今は「対話」をすることが、だいぶ習慣づいてきた段階で、「言いたいことは言えるようになった」だけでしかなくて、そこからさらなる一歩はまだ踏み出せていないかな?一歩を踏み出すには、すごくパワーと勇気がいると思っているので。引っ張っていく人も必要ですし、後押しする人も必要なので、それが今後の課題かなと思います。そういう人が、数珠つなぎに増えていくといいなと。引っ張っていく人が誰かを引っ張って、その引っ張られた人が次は引っ張る人になるので、そんな状態になってはじめて主体性のある組織だと言えるのではないかと思います。
山野さん:この取り組みが「どこかで途切れてしまわないか?」というのは心配しています。たとえば、「理想の職場環境って何だろう?」と問いかけると、社内の制度や設備、職場の雰囲気のことなどへの意見や要望が出てきやすいのですが、実行段階に移ると足踏みをしてしまう。まずは取り組みやすいことからどんどん実施していって、小さな成功体験を積み重ねていくことが大事ではないかと考えています。「キッチンカーを呼ぼう」「昼休みの音楽はみんなが聞きたい曲にしよう」「七夕の短冊を飾ろう」とか、さまざまな角度から動き出している中で、「なんかやり始めたな」「少し工場内の雰囲気が変わってきたよね」と感じてもらえるよう、取り組んでいきたいと考えています。

黒川工場長:1年半かけて副工場長と2人セットで、全社員と話をしました。その対話会も一方通行ではなく、議論になるよう変化してきたと感じます。よく苦情とも言える訴えが出るのですが、工場長を「意見を言うための練習台」として活用してもらうことで、社員が職場での対話スキルを向上させるきっかけや訓練になってくれればよい、と思っています。
「一緒に取り組む」姿勢を身をもって伝えることも大事だとわかり、社員に向けて出すメッセージの伝え方も変わりました。「何々してください」みたいな言い方は一切せず、「一緒に汗かいて取り組もう」とか工夫していますね。

工場長室の扉が開いているとだれでも入室していいことになっていて、昨日も雑談に来てくれた人がいました。「私が座っている席だけエアコンの風が届かなくて、暑くて業務に支障がある」という内容で、今日その場所へ行ったんですよ。何か具体的に解決はしなくても、発言してくれた人の言葉を受け止め、その場に出向いて話すことがまずは大事だな、と感じています。
松岡部長:多分、何らかの心の動きはあるんでしょうね、みんな。それが行動に表れる人もいれば、まだ行動に表れない人もいる。今度はいかに、心が動いた人の行動変容につなげられるか、そのアクションが大事かなと思っています。
二本松部長:「職場として改革を行ないます」と周知していることで、今までは内心思っていてもなかなか表立って言えないこと、やれないことを、みんながポツポツと言い出して動いて、よい結果が見え始めています。すると「俺も」「私も」と、今まで声を上げにくかったことを言い出せる人も増えていくんじゃないかと。そんな仲間が増えてくると、もっと改革も進めやすくなると思います。
今回の取り組みの中で1番強く印象に残っているのは「言語化」です。自分たちの想いをちゃんと文字に、言葉にする。考えて考えて、突き詰める。すると、最後に出てきた言葉は、思いがぎゅっと詰まったものになるんだなとすごく思いました。それをみなさんに伝えるようにすると、今までよりは気持ちが伝わりやすいのかと思います。
