―IB事業部の取り組みで特徴的なのは、初めにOCを育てたことです。事業部内にOSMを展開するときに、社員がファシリテーターを務めることが前提でした。どのような意図や期待があったのでしょうか。

徳橋さん:実は最初からOC育成を計画したわけでなく、予算の問題があってスコラさんのほうから「社内でコーディネーターを育てませんか」という提案があったんです。聞いた瞬間「めっちゃいいじゃん」と歓迎しました。

もともと「リーダーたるもの、最低限のファシリテートは身につけるべき」が持論だからです。部下の本音を引き出し、チーム内の対話を促すことはマネジメントの基本です。システム開発でも、お客さんとのやりとりはファシリテーションそのものです。

実際、この5年間でマネージャーに昇格したOCメンバーは何人もいます。リーダー育成の観点からもOC制度は有効でした。また、外部への依存度が低く、自分たちで活動を継続できるのも魅力でした。

―OC育成の状況やオフサイトミーティングでの実践はご覧になっていたのでしょうか。

徳橋さん:ほとんど見ていません。実は意図的に距離を置いていました。

私は多様性を大切にし、さまざまな意見を尊重したいと考えています。ただ正反対のところがあって、自分が現場に入ってしまうと誘導してしまうおそれがありました。「こうしたほうがいいんじゃないか」「この方向で考えたら?」と口を出してしまうだろうと。せっかくのOC育成が台無しです。

私がめざしたのは現場の「自律自走」です。自分たちで考えて実行する。私が現場から弾かれるぐらいがちょうどいいと判断しました。

ただ、OCメンバーの飲み会には顔を出しました。私は下戸なのでシラフで参加するのですけど、メンバーの様子を見るにはちょうどいい場でした。

実際、OCメンバーの創意工夫は私が想像した以上でした。OSMの進め方もどんどん洗練され、新しいアイデアが出ているという報告がありました。指示しないほうがうまくいく、というのが正直な感想です。OCと事務局に任せて大丈夫という信頼関係があるから、これまで継続できたと思います。

―第2期、第3期、第4期とOCが育ち、事業部内でOSMが展開されました。活動スポンサーとして、印象に残っている場面はあるでしょうか。

徳橋さん:いちばん印象的だったのは、OCからの提案で2023年9月に開催した「部門長対話会」です。35歳から40歳前後のOCが、年上で役職も高い部長たちをファシリテートする光景を見たときは「最高にいいな」と思いました。

会議で若手が部長に意見をいうのはハードルが高い。まして場を仕切るなんてありえない。でも部門長対話会ではOCが堂々とファシリテーターを務め、部長たちも素直に自分の思いや悩みを語っていました。年齢も役職も関係なく、ひとりの人間として対話している。これこそ「本当にフラットな組織」だと感じました。

私が考える「フラット」は、単に上下関係をなくすことではありません。立場や役割の違いはあっていい。しかし対話の場では相手の話を真剣に聞き、対等に意見を述べあえる。

部門長対話会では、このフラットな状態が自然にできていました。OCは質問の投げかけも場のまわし方も実に巧みでした。OC育成の意義をあらためて確信した瞬間です。

また、部門長対話会をきっかけに、参加した部門長たちが「うちの部門でもオフサイトをやりたい」と言いだし、各部門内でもOSMを開く動きが広がっていきました。トップダウンではなく、自ら体験して効果を実感した活動を職場に持ち帰った意味は大きい。

OCの成長を目の当たりにしたのも有意義でした。年上で役職が上の人たちを相手に、臆することなく対話をうながす。OC育成は単なる運営要員づくりではなく、組織能力を高める取り組みだったと確信しています。

―スタート時の5年前に比べて、ビジネス環境や働き方は大きく変化しています。みなさんの活動に影響を与えているでしょうか。

徳橋さん:大きく影響しています。コロナ禍で在宅勤務が中心だったのが、いまはリアルに集まる機会が戻ってきました。しかし率直にいうと、当初の目標「雑談が多い組織」は達成していません。風土改革は想像以上にハードルが高く、コロナ禍でとてつもなく難しい敷居値に上がってしまったというのが実感です。

環境が変わったからこそ、意識的に対話の場をつくる必要が出てきました。放っておけばコミュニケーションは希薄になる一方です。組織が劇的に変わったとはいえないものの、OC経験者は確実に増え、対話の文化も根づいてきました。継続に意味があることは間違いありません。

―5年間の活動を通じて、組織づくりや人材育成について、あらためて感じられたことはありますか。

徳橋さん:私は弱者救済というか、公平性を大切にしたいんですね。大谷翔平みたいなスーパースターを育てるのでなく、平均点より低い層を押し上げる。全員が平均以上になれば、ものすごく強い組織です。

エース社員を伸ばすより、一人ひとりが元気になって全員が強みを発揮する。時間はかかっても、この方向性が間違いでないことは確信しています。

―第5期を迎え、OCの世代交代が進んでいます。OC経験者への期待と今後の課題についてお聞かせください。

徳橋さん:私は「10年後への種まき」だと思っています。OC経験者の30代、40代のメンバーは10年後にはマネージャーになり、部長になっていく。彼らがOSMの価値を理解していれば、自分のチームや部門で同じ活動をはじめるかもしれない。対話を大切にする、メンバーの声に耳を傾けるといったマネジメントを実践してくれるでしょう。


IB事業部では24人のOCが育ちました。他の事業部でも同じ活動ができればいいなと思います。もちろん、「なんでそんなことやるんだ」というアンチ意見は必ず出てきます。でも、私はあまり気にしません。いまは理解できなくても、10年後に「あ、このことだったのか」と気づく人がいるはずです。

対話の価値を知る人が少しずつ増えていけば、10年後、20年後に会社全体が変わっているかもしれない。OCメンバーの成長を見ていると、5年間の活動は間違っていなかったと確信できます。本当の成果は10年後に見えてくるはずです。